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 地震や豪雨などの災害時、障害者や高齢者、妊産婦など配慮が必要な人に対応する避難所の整備が急務だ。東日本大震災では犠牲者の過半数が高齢者で、障害者が犠牲になる割合は被災者全体の2倍にのぼったとされる。教訓を踏まえ、県は「福祉避難所」の設置を市町に呼び掛けてきたが、道半ばだ。

 静岡県内で、高齢者や障害者、妊産婦など「要配慮者」を受け入れる福祉避難所は今年4月1日時点で779カ所で、東日本大震災があった2011年から236カ所増えた。受け入れ可能人数は2万5千人。だが、県内の要配慮者は約7万5千人と推計されており、最大5万人分が不足している。県は「自宅にとどまる人もおり、全員分の確保は必要ない」としながらも、さらなる避難所の開設を進める考えだ。

 福祉避難所に指定されているのは主に介護施設や障害者福祉施設。災害発生を受け、要配慮者は付き添いとともに、地域の一般避難所に向かう。そこで市町の職員が、車いす使用や個室利用など配慮事項に応じて振り分ける。

 社会福祉施設の数が限られることから、県は代替案として17年3月、個室対応ができ、バリアフリーの工夫も見込める宿泊施設を避難所に転用する「賀茂モデル」(下田市発祥)と、一般避難所に要配慮者のスペースを設ける「東部モデル」(三島市発祥)を示し、市町に福祉避難所の確保を促してきた。

 今年、新型コロナウイルスの影響で体調不良者とのエリアを区切った対応が求められるようになり、両モデルによる避難所確保が一気に進んだ。「賀茂モデル」では1月30日、県と県ホテル旅館生活衛生同業組合が、災害時の避難所利用について協定を結んだ。6月1日現在、40組合645軒が協定に参加し、市町の境を超えた利用も可能になった。市町からホテルや旅館を避難所として割り当てられた場合、宿泊代金は公費から支出される。

 「東部モデル」も5月に県が市町に通知を出し、未実施だった11市町を含む全35市町に導入された。通知では、新型コロナの感染予防のため、一般避難所で熱がある人の動線を分けて別室に隔離するとともに、要配慮者のスペースを確保するよう求めた。

 要配慮者の避難では避難所の確保のほかに、「誰が、どうやってどこに連れて行くのか」という一人一人の支援計画が欠かせない。13年度以降、市町が民生委員や自主防災会に計画の策定を依頼しているが、策定率は8%と低迷している。低迷の理由は「誰が、どうやって」を決められないことにある。

 県が注目するのが、兵庫県の取り組みだ。ケアマネジャーが高齢者や障害者のケアプラン(介護計画)を策定する際に、災害時の個別支援計画を織り込むもの。支援者の名前、避難先、家の中で普段すごしている場所、携行する医薬品、自力歩行の可否、介護認定、認知症の有無などを細かく聞き取って、避難計画を実効性のあるものにするのがねらいという。県は来年度以降に同様の「災害時ケアプラン」の導入を検討している。(阿久沢悦子)

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 車いす利用者らが自家用車を避難所代わりに利用できるような改造に取り組む業者もある。静岡県牧之原市坂部の自動車整備会社「ヤマシタオート」は災害時に車いすの乗り入れを可能にするカスタム福祉車両と、水や電気を確保できるキャンピングカーキットを開発。山下佳敦社長(38)は「大規模災害に備え障害者の避難生活を支える一助になれば」と期待する。

 山下さんは生まれつき心臓に病気があり、1歳までに2度大きな手術を経験し、子どものころは検診などで病院通いが続いた。茨城県内の企業で燃料電池の研究をしていたが、6年前に静岡にUターンして実家の自動車整備会社を継いだころ、営業先で福祉車両の修理を頼まれた。「車を通じて、昔の自分と同じように生活に困難を抱える人を助ける仕事ができるかも知れない」と、福祉車両に特化した中古車の販売や修理をするようになった。

 障害を持つ人たちとの交流が増える中で、身体の障害を抱える子を持つ客から「まわりに迷惑を掛けてしまうかもしれず、災害があっても避難所に行けない」と相談を受けた。障害者の家族が周囲にどれだけ気を使い生活しているのかを気付かされ、避難時に使える車の開発に着手した。

 6人乗りのハイエースを、車いすが3台乗せられるよう改造。車いすを利用したまま乗り込めるようスロープをつけたり固定ベルトを装備したりして、障害者やその家族が車中で過ごせる空間を確保した。改造にかかる費用は120万円ほどだという。

 生活に必要な水と電気を車内で確保できる持ち運び可能なキャンピングカーキットも開発。横90センチ、奥行き40センチ、高さ50センチ、重さ約20キロの箱形で、中にバッテリーと水を入れるポリタンク、小型冷蔵庫を装備する。箱の上部にシンクがあり、蛇口から水を流すことができる。年内の販売開始を目指し、価格は30万円前後を想定する。

 避難所での集団生活をためらって避難が遅れれば二次災害にまきこまれる可能性もある。山下さんは「車の面から災害時の避難をサポートし、避難のハードルを下げたい」と話している。(広瀬萌恵)