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 頻発する河川の氾濫(はんらん)から住民の命や暮らしをどう守るか――。昨年の東日本台風が突きつけた重い課題に、国は「流域治水」と「粘り強い堤防」という2本の柱を立てた。決して目新しい考え方ではない。甚大な被害を再び出さないために、ダムなどに頼った従来の発想を乗り越えることが求められている。(北沢祐生)

 今月1日、千曲川の堤防上の真新しい道路を歩く赤羽一嘉国土交通相の姿があった。決壊した長野市穂保の視察は昨年11月以来。「二度と氾濫しないように信濃川水系の流域治水として対策を進め、地域住民に安心してもらえる河川にしていきたい」と語った。

 赤羽氏が口にした、水系全体を見据えた流域治水は、7月に国土交通省が示した河川行政の新機軸。堤防や下水道、水をためる遊水地などの整備に加え、危険な地区からの住居移転を誘導したり避難体制を作ったりと、ソフト・ハードの両面で備える考え方だ。毎年のように大規模水害が起き、「ダムなど川の中だけで洪水を抑え込むことが難しくなった」(同省幹部)ための転換ともいえる。

 千曲川は支川の犀川を合わせ、信濃川として新潟県の日本海に注ぐ延長367キロの日本一の大河だ。一部に負荷がかかり災害発生につながらないよう、水系全体のバランスがとれた整備が欠かせない。

 千曲川や信濃川を所管する同省北陸地方整備局(新潟市)は、河川整備計画の変更に着手。9月24日の有識者会議で「流域のあらゆる関係者が協働し、防災・減災が主流となる社会を目指す」とし、「戦後最大」とする東日本台風に対応できるようにハード面の整備をさらに進めるとの方向性を示した。

 具体的には、川幅が急激に狭まることで川上の水位が上昇すると指摘される立ケ花(中野市)、戸狩(飯山市)の2カ所で川底を掘削したり遊水地を新設したりするほか、信濃川中流で洪水を海へ流す新潟県の大河津分水路の川幅拡張などを想定する。

 有識者会議メンバーの新潟大の安田浩保准教授(河川工学)は「線に面が加わって対策の幅を広げる」と流域治水を評価。その上で「行政や研究者はこれまで以上に洪水の実態や危険性を市民に知ってもらう努力をしなければならず、理解を得ることが整備の加速化にもつながる」と話す。

 1997年の改正河川法は、地域住民の意見を反映した整備計画とするよう求めており、公聴会などで市民の側から声を上げていくことも肝要だ。整備局は11月にも有識者会議に上中下流ごとの部会を設置。ソフト面を含めて本格的な計画見直し作業に入り、来年の変更を目指す。

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 「なぜ、完成堤防が破れたのか」。同省千曲川河川事務所(長野市)が被災地で度々開いてきた説明会では、住民からこんな声が相次いだ。

 堤防は原則、土を固めたものだ。同市穂保の決壊した堤防は、1970~80年代の工事で計画上必要な高さや幅を確保した「完成堤防」との位置づけで、のり面も含めた全体の幅が38メートル、高さは5メートルあった。2005~07年度には住宅側ののり面にさらに土を盛り、桜づつみも整えていた。住民にとっては決壊は「想定外」だった。

 同省の調査で、千曲川を含む国管理河川で堤防が決壊した12カ所すべてが越水によるものと判明した。

 千曲川の越水の主な要因は、決壊地点から約5キロ下流の立ケ花狭窄(きょうさく)部にあった。手前で1キロ以上ある川幅はここで260メートルまで狭まり、最小は120メートル。洪水時には水の流れが悪くなるため、狭窄部上流側の水位をせき上げる。滞った流れは長時間の越水を生じさせ、土の塊は崩れ落ちた。

 実は、同省は20年以上前から「完成堤防」の上をいく「耐越水堤防」の重要性を認識していた。

 「越水に対し耐久性が高く、破堤しにくい堤防の整備を進める」(97年の建設白書)との方針のもと、「フロンティア堤防」「アーマーレビー」(鎧(よろい)をかぶった堤防)の名で一時は整備が進められた。88年~03年度にかけて信濃川も含む全国9河川で造られたが、総延長は26キロにとどまり、普及することはなかった。

 同省は報告書で「維持管理上の課題やコストの大きさ」などが理由としているが、それを疑問視する見方は少なくない。

 「破堤しない堤防ができれば、ダムの費用対効果が下がって建設の妨げになる」と話すのは、元建設省土木研究所次長の石崎勝義さん(82)。当時の川辺川ダム(熊本県)の反対運動などが影響したとみる。

 今年2月、穂保での住民集会に参加。地域の「決壊しない堤防を」と求める切実な思いを感じたという。「国は全国でどこが危ない堤防かを調べ、すぐに強化に着手すべきだ。ダムに比べれば費用は安く済む」

 ダム問題に詳しい拓殖大の関良基教授は「耐越水堤防を地道に整備し続けていれば、かなりの破堤は防げたと推測できる」と指摘。「決壊の可能性のある堤防を放置したまま、多額の費用をかけてダムを造り続けたことが本末転倒だった」と問題視する。

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 かさ上げや拡幅、修復の容易さなどから用いられてきた土の堤防だが、東日本台風がその脆弱(ぜいじゃく)さを改めて露呈させた。住民にとって身近で関心が高い堤防整備は今後どうなるのか。

 昨年、千曲川と同様に決壊した荒川水系の都幾川(埼玉県)の堤防は、住宅側のり面の下部をブロックで固めた箇所もあり、この部分は約8時間の越水に耐えて決壊を免れたが、補強されていない上部のり面は浸食されていた。

 対策を迫られた国交省は、今年8月にまとめた堤防強化に向けた報告書で、のり面を含めた堤防の表面すべてをコンクリートブロックや遮水シートで覆うなどする「粘り強い堤防」の必要性を打ち出した。越水しても決壊しにくい堤防にすることで被害を最小限に食い止めるという考えだ。

 千曲川では、立ケ花狭窄部が影響する上流約8キロ区間(長野市の村山橋まで。穂保の復旧区間を除く)の堤防強化は2023年までに完了させる。復旧箇所で採用した、のり面をコンクリートなどで覆う耐越水の工法を検討する。

 これと並行して、中野市などで予定する遊水地設置や立ケ花と戸狩の狭窄部の掘削は27年度末に終える。また、上流域の高瀬川にある同省の大町ダムと東京電力の利水ダム2基が連携。水害時に使える容量を多めに確保し、洪水調整機能を高めることにしている。

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