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 1年前の台風19号は、那珂川と久慈川を中心に国管理の6河川、県管理の59河川で同時多発的に被害をもたらした。国や自治体は混乱し、被害把握や情報伝達に大きな課題を残した。早く正確に状況を把握し、有効な情報提供につなげるため、様々な取り組みが始まっている。

 ビニールハウスや畑が広がる茨城県常陸大宮市野口地区の国道沿いの風景に今年7月、ささやかな変化があった。カメラと水位計がついたことだ。国道に平行して流れる那珂川の河川敷を映す。映像はインターネットの防災サイト「川の水位情報」で公開されている。

 「高齢化した地区でネットを使わない住民が多い。大半は設置を知らないのでは」。近くのビニールハウスでイチゴを育てる農家の都竹(つづく)大輔さん(48)は言う。昨年の台風19号ではカメラ設置場所の下流の堤防が決壊し、農場は約3メートル浸水。ハウスは全損し、収穫をあきらめた。「避難のことを考えると、さらに上流にも整備してほしい」

 設置した国土交通省常陸河川国道事務所によると、カメラは10分ごとに広角の静止画像を撮影。ズームや首振りはできない分、安価で多くを設置できる。

 台風19号では、那珂川水系で本流3カ所、支流2カ所、久慈川水系で本流4カ所、支流3カ所の堤防が決壊。越水や溢水(いっすい)は計25カ所に及んだ。本流が増水したことで、合流部付近で支流側に逆流するバックウォーター現象が起きたとみられている。

 同時多発的に堤防決壊や越水が起きたことで、常陸河川国道事務所や流域自治体は混乱した。

 氾濫(はんらん)情報を的確に把握できず、同事務所は、決壊や越水などが起きた際に出すべき「氾濫発生情報」を、那珂川で計16カ所中15カ所、久慈川で4カ所中1カ所で発表できず、後日、赤羽一嘉国交相が謝罪した。常陸大宮市安全まちづくり課の小林公則防災監は「発表があれば職員や消防団員を集中配置でき、住民にもより強く避難を呼びかけられた」と振り返る。

 同事務所の堀内輝亮副所長は「夜間に二つの河川で同時多発的に発生し、混乱した。監視カメラも足りなかった」と認める。

     ◇

 同事務所が機能不全に陥った事態を踏まえ、那珂川や久慈川を管轄する国交省関東地方整備局は検証チームを作り、今年3月に報告書をまとめた。

 報告は、主な課題として①人員不足で配置も非効率だった②リアルタイムで現地把握ができなかった③市町村などと情報共有できなかった、などを挙げた。

 これを受け、同事務所は水害に対応する人員を28人から43人に増強。連絡の窓口が錯綜(さくそう)した反省から、自治体や気象台、マスコミなどの問い合わせ窓口を分けるなど、役割を整理した。

 カメラはこれまで、那珂川(栃木県を含む)と久慈川に計29台あったが、簡易型30台を新たに設置。水位計も堤防決壊箇所6カ所に新設する。「氾濫センサー」の試験運用もスタート。水位上昇や決壊による地形変化を感知すると、自動的に同事務所に知らせる仕組みだ。全国に先駆けた取り組みで、流域各所への設置をめざすという。

 支流を管轄する県も、カメラや水位計の増設を進める。県全体で約100カ所を整備するという。ドローンも活用し、県内12土木事務所に空撮用に1機ずつを配備。リアルタイムで動画を送信する体制を整えた。

 水戸市は8月、東大と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同研究に参加。人工衛星の画像と事前の気象データを使い、AIが洪水リスクを予測し、市が情報提供を受ける。精度に課題があるというが、人員の重点配置など初動対応に役立つことが期待されている。

 産官学連携で防災技術の向上に取り組む斎藤修・茨城大工学部特命教授(土木情報学)は「カメラは夜間や荒天時の撮影が困難という問題があり、AI予測も精度向上にはいま少し時間がかかる。新たな技術で得た災害情報を高齢者ら情報弱者にどう伝えるのかも課題となる」と指摘する。(古源盛一)

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