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 妻が小学校で教えていた半世紀前、交際中の夫は学校での日々をつづった手紙を頻繁に受け取っていた。妻が若年性アルツハイマー型認知症を患い、記憶を失っていくなかで、夫は大切に保管していた当時の手紙を読んであげる。9日には教え子が校長を務める中学校に寄付金を贈呈。生徒たちに妻への思いを語った。

 福岡市在住の上野博雅さん(70)の妻由紀子さん(69)は、1972年から2年間、八代市立植柳(うやなぎ)小学校で2、3年生の担任をした。当時交際していた博雅さんは東京におり、由紀子さんとの間で手紙やはがき、声の録音テープを送り合った。由紀子さんからの手紙は約300通に上る。

 由紀子さんは植柳小で2年働いた後、博雅さんとの結婚を機に退職。その後は手紙や電話で教え子たちを励ましていた。

 50代半ばで若年性アルツハイマーと診断され、教え子たちの記憶も少しずつ失われていった。博雅さんは「妻が自分で書いた手紙の中身を聞いて、少しでも心に響いてくれれば」と願い、当時の手紙を読んであげる。今はほとんど反応しないように見えるが、「たぶん聞いているんじゃないかと思う」。

 ほとんどの手紙に生徒たちとの触れ合いが書いてあった。博雅さんは教え子たちに見てもらうため、その部分だけを集めて冊子にまとめたこともある。

 3年前、植柳小に図書の購入費として30万円を寄付。今回は教え子の田北佳一郎さん(55)が校長を務める八代市立第七中学校のPTAに10万円を贈った。「妻だったらそうするだろう」と思ったからだ。

 田北校長は由紀子先生との思い出について「自分が元気良すぎて、一番迷惑をかけていた」と懐かしそうに話した。9日には博雅さんを歓迎するため臨時の全校集会を開催。由紀子さんは福岡から八代市まで来るのが体力的にも難しいため、博雅さんが1人で来校した。

 120人の生徒を前に、若いころの由紀子さんの写真が紹介された。博雅さんは壇上から「実物はもっとかわいかった。彼女に出会った当日に結婚を申し込んだぐらい」と話し、生徒たちの笑いを誘った。

 全校集会の後、博雅さんは取材に対し「感受性の豊かな妻は、季節の移り変わりを惜しむような気持ちも手紙に書いていた。季節ごとの行事を一緒に楽しむなど、もっと妻のためにしてやればよかった」と静かに語った。(村上伸一)

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