[PR]

 浸水対策や避難のあり方など、多くの課題を残した台風19号が東京に最接近してから、12日で1年。各地で教訓を踏まえた対策が進むが、簡単にはいかない現実も浮かぶ。

     ◇

 流域の広範囲に浸水被害を引き起こした多摩川。東京都世田谷区、大田区、府中市、多摩市など流域8市区は今年1月、国や都、神奈川県と一緒に「緊急治水対策プロジェクト」をまとめた。水位を下げて氾濫(はんらん)を防ごうと、川底を掘削するなどの対策に乗り出す。5年で水位を40~60センチ下げたい考えだ。

 国土交通省京浜河川事務所によると、国費191億円を投じ、川底を掘ったり河川敷の樹木を伐採したりする。2024年度まで集中して工事する。水位を低くすることで下水や支流への逆流をなくし、住宅地の浸水を防ぐ効果が期待できるという。今後配備を進める移動式排水ポンプ車を使い、水があふれる住宅地から多摩川への直接排水も促したいとしている。

 世田谷区は今月、多摩川左岸の住宅街が浸水した原因などを調査した最終報告書を公表した。浸水は複合的な要因としながらも、強い風雨などで職員が近づけず閉鎖できなかった水門「等々力排水樋門(ひもん)」は「閉鎖の必要性があった」と指摘した。これを受け、これまでよりも離れた場所に新たに遠隔操作盤を設置。作業員の転落防止のために柵を高くする対策もとった。

 ソフト面の改善を図る自治体も。調布市では台風19号の際、自主避難所を含む避難所を16カ所設けたが、多摩川に近い4カ所に避難者が集中。別の避難所に移動を余儀なくされた人もいた。人数の把握に手間取り、混雑情報を的確に発信ができなかったことが一因だった。

 この反省から、市は避難所の混雑状況が一目で分かるよう、QRコードを利用した情報集約システムを導入した。避難所での受付時にスマホでQRコードを読み込み、人数などを登録すると、その情報が市のHPで確認できる。避難所で新型コロナウイルスの感染者が確認された場合、接触の可能性があった人に連絡がいく機能もある。

 7月には避難訓練で実際に使用。10月の市報にQRコードを載せて体験できるようにするなど、周知を進めている。(野田枝里子、平山亜理

     ◇

 激甚化する災害に、抜本的な対策が難しいケースもある。

 東京都狛江市では当時、多摩川の水が下水管や水路に逆流し、301棟が浸水した。被害は下水が多摩川に流れこむ2カ所の水門付近の住宅に集中していた。外部委託した原因分析では、水門を閉じなかったことが被害拡大の原因と指摘された。これを受けて、市は逆流時には原則水門を閉めるという新基準を作った。だが、今度は下水の排水ができずに住宅地に水があふれる恐れが出てくるというジレンマもある。

 「また水が来ると思うと前向きになれなくて………」。1階の全8戸が浸水した水門そばのマンション1階に住む竹内安さん(78)は、約300万円かけて和室の畳や壁などをリフォームしたが、リビングの床はまだ張り替えていない。大雨で再び浸水する不安があるからだ。マンション管理組合の吉兼元幸理事長(70)によると、1993年入居開始の全40戸の半数超が高齢世帯。避難所まで歩いて逃げることに限界を感じているという。

 吉兼さんは「大規模な貯水施設など、抜本的な『公助』がいる」との考え。水害に強いまちづくりを話し合う住民参加型の組織を作るよう今年9月末、市に要望した。市は貯水施設などは「検討する」とするが、実現の見通しは立たない。市が優先するのは新想定のハザードマップの作成や、商業施設と協定を結んで避難所を確保するといった対策だ。ただ、さらなる避難施設の確保は難しく、「事前に市外の親類宅などへ避難を」と呼びかけている。

 荒川、江戸川などの巨大河川が貫く江戸川区。台風19号では大きな被害は免れたが、区の広範囲が海水面より土地が低い「海抜ゼロメートル地帯」だ。同区など5区がまとめた大規模水害時の浸水想定では、約70万人の区民のうち、2週間水が引かない地域に50万人が暮らす。職員らが「洗面器の底」と呼ぶように抜本的な対策は難しいが、江戸川区がひねり出した策が「ボート避難」だ。

 今年夏までに、避難所や区役所などに計106台のボートを配備した。避難所が水没した時、ピストン輸送で被災者を移送することを想定している。しかし、定員は6人に限られ、どこまで効率的に避難させることができるのか不透明だ。

 区が最も重視するのは、千葉や東京北部の高台などに逃げる「広域避難」と高いビルの上階への「垂直避難」だ。ただ、これにも困難がつきまとう。台風19号では電車やバスが計画運休し、広域避難の難しさが明らかになった。垂直避難も、長期間水が引かなければ、飲料水や食料不足で二次災害が起こりかねない。

 今月9日、区内7カ所の排水ポンプ所の強靱(きょうじん)化を都に陳情した斉藤猛区長は「やれることをひとつ一つやっていくしかない」。(前川浩之、抜井規泰)

関連ニュース