拡大する写真・図版イラスト・中島美鈴

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 仕事で使うたくさんの資料に目を通しているとき、ふと気づけばただ読んでいるだけになっていませんか? 今回のコラムはそんなあなたにぴったりです。改善策について、臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

ただ読んでいるだけに

 前回に引き続き、制限時間内に仕事を終わらせる方法についてご紹介します。制限時間内に仕事が終わらない原因を五つのタイプに分けてご紹介してきましたが、今回は「③枝葉に気を取られて森で迷子タイプ」について詳しくお話しします。

 仕事に必要な参考資料に目を通すうちに情報量の多さに圧倒され、気づけばただ読んでいるだけになってしまうなど、ゴールを見失っているタイプがこれに当たります。

 他の例ですと、片付けをしていて、写真や手紙が出てくると手を止めて思い出にふけってしまうのもこのタイプですね。

 前回ご紹介した細部にこだわってしまうタイプとの違いは、このタイプは、こだわりなどはないのですが、ゴールのことをすっかり忘れてしまって、情報の海でおぼれてしまっている点、もはや仕事になっていない点で異なります。

 おそらく、本人に「ねえ、ちょっと待って。今何しているの? ゴールってなんだったっけ」と尋ねると、「それがね、ちょっとわかんなくなっちゃったのよ」と返事がくるはずです。そのぐらい脇道にそれてしまっています。

 こうしたタイプに必要な対処策は「仕事のゴールを忘れないこと」です。

常にゴールを意識

 仕事のゴールを、常に目で見えるようにしておく(視覚化)こともよいでしょう。例えば、「本を並べる!」などと仕事のゴールをメモ書きにして見える場所に置くなどはどうでしょうか。他には、口で「本を並べるだけ、本を並べるだけ」と、もごもご言いながら作業すると道に迷わずにすみます。

 また、本を並べる作業開始時に、5分おきなど一定間隔ごとにアラームをかけ、アラームがなるごとに「あれ? 今何しているんだっけ? 仕事のゴールってなんだったっけ」と自分を振り返るようにするのもよいでしょう。

 でも私がもっとオススメする対処法は「プロジェクトの細切れ作戦」です。

 例えば、「プレゼンの資料作り」をするときに、みなさんはどのような手順で進めますか? プレゼンの内容は、自分の手元にあるデータだけでなく、参考になりそうな資料からの引用もあるものとします。そうした場合、手順はこんなかんじでしょうか。

1)全体の構造を考える(目次スライドの作成)

2)それぞれのスライドのタイトルとおおまかな内容を考える

3)手元のデータの整理(グラフの作成を含む)

4)参考になりそうな資料から使える箇所を抜き出す

5)各スライドを作り込んでいく

すきま時間の活用を

 これらの手順を全て席についてからするとしたら、なかなかのボリュームですよね。特に「枝葉に気を取られて森で迷子タイプ」には4が危険です。参考資料を読みながら、枝葉に気を取られて膨大な時間を過ごすことになる可能性が高いからです。

 そこで、4の作業のゴールを具体的に設定して、あえてすきま時間にこなすことにします。

 例えば、「参考になりそうな資料はこの本」と決定したら、1で考えた全体の構造と照らし合わせながら、「どんな話題についての情報を求めるか」を念頭に置きながらその本の目次から「どの章(部分)が参考になるからそこを読むぞ」をターゲットを絞り込みます。

 これをするとずいぶんボリュームが減らせるので、森に迷う確率も減らせます。

 あとは、その本を付箋(ふせん)を、カバンに入れます。外出先のちょっとしたすきま時間にその本を読むのです。バスの待ち時間、電車の移動中、レストランで食事を待つ間、待ち合わせで相手が来るまでの間など、けっこうすきま時間はあるものです。そんなちょこっとした時間だからこそ、集中できて、森に迷い込まないのです。

 おまけに眠くなりません。「ここ、参考になるぞ! 引用するぞ」という箇所がみつかったら付箋をつけます。これで4の作業は終了です。

 以上の手順を簡潔に表した標語を作りました。

この名言・・・

 「仕事は席に着く前に8割終わっている」

 そうなんです。机につくときには、構成は当然できている。材料もそろっている。あとは、組み立てるだけ。アウトプットするだけという状態にしておくのです。

 実はこのコラムも、すきま時間に月間の内容をおおまかに書き出しています。流れを箇条書きで作っておけば、散歩したり、シャワーを浴びたりする間に、ストーリーを練ることができます。

 肉付けは日常のいろんな体験からインスピレーションで生まれます。机についたときにはひたすらワードで出す、出す、出すです。

 1カ月分の原稿をまとめて2時間程度で書くようにしています。書籍の場合にも同様の手順で行えば、だいたい長くて2日間で書き上げます。準備こそが命です。ぜひお試しください。

 ◇コラムの筆者が作成したADHDタイプの大人のための時間管理グループレッスン」がオンラインで受講できるようになりました。詳細はこちらから。(http://kanameclinic.sakura.ne.jp/sblo_files/kanameclinic/image/E69982E99693E7AEA1E79086E382B0E383ABE383BCE38397E381AEE38194E6A188E58685EFBC88E38396E383ADE382B0EFBC89.pdf別ウインドウで開きます

中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。