拡大する写真・図版イラスト・中島美鈴

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 何をやるのにも、いつもギリギリに間に合わせる。そんな経験、思い当たりませんか? 自分にもまわりにもあまりいいことではありません。でも、ほんのちょっとの行動で変えられます。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

五つの落とし穴とは
ここ数回のテーマは「時間内に仕事を終わらせる」でした。なぜ終わらないかの原因を探ると、大きく五つのタイプに分かれるようです。これまでの四つはこちらのリンクから読めます。

不安と仲良しな人に多い

 引き続き、制限時間内に仕事を終わらせる方法についてご紹介します。今回は、制限時間内に仕事が終わらない原因のタイプ「⑤勝手にゴールの完成度を上げているタイプ」についてです。

 上司や取引先など、相手から求められている仕事のレベルよりも高いレベルでこなさなければならないと思い込んでいるか、相手とゴールのすり合わせの交渉を気が引けてできていないタイプといえます。そのため、無駄に高いレベルを目指して時間内に仕上げることができていないようです。

 上司や取引先からは喜ばれることもありますが、時間内に間に合わないと、上司に反対に迷惑をかけてしまうこともあるでしょうし、叱られるかもしれません。なにより、自分の時間を多く失うことになります。

 不安と仲良しな関係なのが、このタイプです。なんらかの過去の体験(おそらく自分の生み出した成果に対して“これでは不十分”という評価を受けて傷ついたのかもしれません)から、「またできていないと批判されるのではないか」という恐れがあるのでしょう。これが不安となり、自分でハードルを上げてしまうのです。

 この不安は、ギリギリ癖という副産物も生み出します。「十分な成果を上げられない人間なんだ」という思い込みが、「こんな高いレベルを求められている課題など、こなせるはずがない」という考えを生み出します。

 こんなふうに考えると、腰が重くなるものです。だから、先延ばしをします。結果、いつも締め切りギリギリか遅れてしまうということになるのです。やっかいなことに、締め切りに遅れたからにはよい結果を出さねばとますますハードルを上げてしまうという悪循環にはまってしまいます。

こんな経験、ありませんか

 このコラムで連載しているADHDの主婦リョウさんも時々このパターンに陥ります。

 子どもの小学校のPTA役員が入っているグループLINEでのやりとりのことです。

 今年度の活動計画について締め切りの日までに全員が意見を出すよう求められました。リョウさんは正直特にアイデアもありませんでしたし、できれば活動は最小限でやりたいと思っていました。なので、つい意見を述べるのが面倒で先延ばししたのです。他のメンバーが次々投稿しました。締め切りが近づくにつれて、

 リョウ「あーやばい。もうほとんどの人が投稿しちゃった。今から投稿するには、それなりにじっくり考えた意見にしなくちゃいけないかなあ。短文で許されるわけがないよなあ」とプレッシャーが高まっていきました。それでどんどん先延ばししたのです。

 リョウさんがグループLINEへの投稿を先延ばした背景には、娘がまだ幼稚園の頃のグループLINEでの苦い思い出がありました。リョウさんの投稿に対して、「あんな言い方されると、他の意見言いにくい」と陰口をいったママ友がいたらしいのです。人づてにそのことを聞いたリョウさんは、深く傷つきました。それ以来、どうも率先して意見をいうのが怖いのです。

 特に誰から高いレベルの発言を求められたわけでなくとも、どうしてもひとりでハードルを上げてしまいます。また傷つきたくないからです。

 もし、リョウさんが違う対応をとっていたら、どうなったでしょう。つまり、グループLINEの返事を先延ばさずに、早めに返事を出してハードルをこれ以上上げないようにするとか、断定的な言い方を避けることだけは意識して簡潔な返事をするなどはいかがでしょう。そうすれば、リョウさんはもっと早くプレッシャーから解放されたことでしょう。

上司とゴールの確認を

 場面は変わって、上司から仕事を受ける際にも、同じ不安が発動するかもしれません。その場合には、上司から仕事を頼まれた際に、その場でじっくり相手が求める仕事のゴールを確かめます。

 なんなら、「最低限のラインはどのあたりだ」というかんじで探りを入れます。「よし、これが必要最低限だ。ここまでおさえておけば、許されるんだな」と明確にわかったらOKです。

 感覚だけだと、認識がずれることは多いので、できればメモで箇条書きにしたり、メールで要点を確かめたりして視覚化することは大事です。「褒められたい」「認められたい」という欲や、「この人から叱られたくない」という恐怖よりは、「これまでやれば許される」というラインの見極めに没頭しましょう。

 早めにそのラインをクリアできれば、残された時間でよりよいものにしていけばいいのです。

 ◇このコラムの筆者が12月27日(日)午前7時よりオンライン講演会をします。「なぜあの人は期限を守れないのか」ぜひご視聴お待ちしております。(https://peatix.com/event/1687466/view別ウインドウで開きます

中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。