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 明かりの落ちた店内の通路を、車輪のついた自動巡回ロボットが、なめらかに走る。ソファが置かれた場所に来ると動きを止め、青色のランプを照らした。

 9月末、つくば市稲岡のイオンモールつくば。筑波大発のスタートアップ企業「Doog(ドーグ)」が、新型コロナウイルスを念頭に消毒作業するロボットの実証実験をしていた。

 人の後ろを自動で追う運搬用ロボットを開発する同社は、起業から8年間で社員が約30人に増え、2017年にはシンガポールに子会社を構えるなど、順調に業績を伸ばしてきた。

 大島章社長(35)は「市役所の紹介で実験場所を見つけられた。つくばは新しいことに挑戦できる雰囲気があり助かっています」。

 近年、だれも目を付けたことのない領域で起業してたちまち成長する「スタートアップ」と呼ばれる新興企業が注目を集める。米国のフェイスブックやアマゾン、日本国内だとメルカリなどが代表例だ。

 よい着想があっても、資金調達や売り出しがうまくないと実を結ぶことはない。研究機関が約150集まるつくば市は、事業化のタネは多いのに生かし切れていないのが課題だ。

 市は18年末に「スタートアップ戦略」をまとめ、テコ入れに乗り出した。

 先輩経営者らとの交流や経営知識を学ぶ催しを企画。起業後も、投資家や金融機関に相談する場を設けたり、開発した製品やサービスを実験する場所をあっせんしたりしている。

 市が力を注ぐ理由は、スタートアップが、少子高齢化が進む将来をにらみ、新たな産業の創出や社会問題の解決を担うエンジン役と期待するからだ。

 「つくば市人口ビジョン」によると、現在約24万4千人の人口は、36年に約25万9千人でピークを迎えて減少に転じる。生産年齢人口も減り、地域経済が低下していくと見られる。

 スタートアップ推進室の前島吉亮室長は「成功する企業が増えれば雇用が生まれ税収増につながり、にぎわいも維持できる」。市内の新興企業は300社を超え、活動がメディアで報じられる企業も増えてきた。

 だが、まだ発展途上だ。カネと人が圧倒的に集まる東京などの大都市や、いち早く「スタートアップ都市宣言」をした福岡市などが先頭を走る。事業所のうち、1年以内に設立された割合(開業率)で見ると、茨城県は18年度に4・8%と全国平均(4・4%)を上回る程度だ。

 つくば市は7月、政府による全国的なスタートアップ支援政策で拠点都市に選ばれたが、東京を核にした協議会の一員に過ぎず、よそと比べて特別優位にあるわけではない。

 住民の理解が追いついていないのも課題だ。

 市が19年8~9月に行った市民意識調査で「科学のまちであることの恩恵を感じるか」と聞いたところ、「あまりない」が最も多く、「ない」と合わせると回答者の50%近くに上った。研究機関が集まる研究学園都市地区以外になると、これらの割合は、ずっと高くなる。「先端的な製品・サービスが暮らしの中に活(い)かされているか」の問いは、65%近くが否定的な答えだった。

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 私が記者になった約30年前、インターネットは出てきたばかりで携帯電話もなかった。以来、科学技術が社会を変えていく様を興味を持って取材してきた。つくばに着任後、スタートアップの活動を数多く耳にする。小型ロケットを洋上から打ち上げる場を提供する会社や衛星データからワイン用ブドウの適地を見つける取り組みなど着想に感心するものも多い。ただ、耳慣れない横文字があふれることもあり、新しいもの好きな若者らがお祭り騒ぎをしているような印象が強い。少子高齢化時代に地域経済を支える存在と期待を託すのであれば、その意義を市民でもっと共有する必要があると思う。(庄司直樹)

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