「何も持っていない、心配」 認知症女性を高校生が救う
道に迷っていた認知症の80代の高齢女性に付き添い、福井県警敦賀署まで送り届けた県立敦賀高校3年の戸澤伴栄(ともえ)さん(18)にこのほど、吉田秀明署長から感謝状が贈られた。戸澤さんは実に約1時間半にわたり、女性に付き添い続けた。
戸澤さんは下校途中だった先月16日午後6時半ごろ、敦賀市木崎の県道交差点で高齢女性に声を掛けられた。「若葉町の友人の所に行きたいのですが、どうやって行くのか道を教えて下さい」。「この方向をまっすぐに進めば行けますよ」と戸澤さん。ただすぐに「若葉町までは結構遠い。おばあちゃんが何も持っていないし、一人歩きは心配」と、一緒に若葉町まで歩くことを決めた。
30分ほどかけて到着したが、女性は友人の家の住所や電話番号も知らなかった。もう午後7時過ぎで、周囲は暗い。これ以上は危険と判断した戸澤さんは、女性に帰宅を提案し、了承してもらったという。
しかし、女性の自宅の地区こそ分かったが、住所、電話番号も分からない。道すがら、自分の名前を何度も名乗り、家族の話を繰り返す姿に戸澤さんは「認知症かもしれない。おばあちゃんの体力も心配になり、警察署まで一緒に行こうと決めました」と振り返る。
敦賀署に着いたのは午後8時ごろ。声を掛けられてから1時間半が経っていた。女性は認知症で、後日、心配していた家族は戸澤さんに感謝していたと、署から教えてもらった。
市長寿健康課によると、市内で65歳以上の要支援、要介護で認知症の疑いがある高齢者は約2千人いるという。そういう高齢者の名前や特徴などを事前登録し、行方不明発生時などの早期発見に役立てるネットワークの登録者数も年々増加しているという。
署は戸澤さんに対し、人命救助と同じぐらいの尊い行動だったとして感謝状を贈った。廣部光英・生活安全課長は「一人歩きの高齢者を発見したという通報はあるが、ここまでの見守りをする人はまずいない。意思を持った正義感と使命感に警察官にスカウトしたいぐらい」とたたえた。
戸澤さんの中学生までの夢は警察官で、今は環境ツーリズムを学ぶための大学進学に向け勉強中という。「おばあちゃんが無事、家に帰られて安心した。『一緒に行きませんか』と声を掛け、行動できて良かった」とうれしそうだった。(佐藤常敬)
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