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 自らの性別を模索する若者を追ったドキュメンタリー映画「ぼくが性別『ゼロ』に戻るとき 空と木の実の9年間」の上映が関西で始まる。周りや自分がつくる様々な枠が、「自分らしさ」を狭めていないか。常井(とこい)美幸監督(54)はそんな問いを投げかける。

 「私には夢が二つあります」。川崎市の小林空雅(たかまさ)さん(25)が17歳のとき、定時制高校生の弁論大会で話す場面から映画は始まる。体と戸籍の性別を女性から男性に変えること、声優になること……。

 13歳のとき性同一性障害と診断された小林さんを、中学生から社会人になるまで記録した。始まりは2010年。NHKディレクターだった常井さんが、精神科医で性同一性障害の人を伝える新聞記事を読んだのがきっかけだ。

 「言葉は知っていたけど、なぜかこのとき頭から離れなくなった」。性別に揺れる人たちは、人生をどう生きているのか。男女で分けがちな学校で子どもたちはどう過ごしているのか。取材を始めた。

 ブログを通じて小林さんと知り合った。女子の制服を着るつらさやいじめを経験し、不登校になっていた。「自分を語る語彙(ごい)を持っていなくても、小林さんの中に『男性として生きたい』『人に伝えたい』という強い意志を感じた」

 番組で数分のリポートとして流し、終わったはずだった。だが2年後、高校生になった小林さんが弁論大会で約700人の観客を前に堂々と自分を語る姿を見て、どんな大人になっていくのか追いたいと思った。

 家庭、学校、職場、病院。「自分にタブーはない」という小林さんの日常を、あらゆる場所で撮った。常井さんが好きなのは、放課後の教室で高校の同級生4人と本音で語り合う場面だ。「たまたま友人に恵まれたと見る人もいるかもしれないけど、小林さんが心の内を外に開くことで周りを変えてきた」と常井さん。

 性別に揺れる他の人たちと小林さんが出会う場面も撮影した。78歳で性別適合手術を受け男性から女性になった八代みゆきさん(撮影時92歳)、自分を男性とも女性とも思わない中島潤さん(同26歳)との化学反応は、その後の小林さんを変えていく。

 常井さんは昨年3月、映画の完成を機にNHKを辞めた。映画を広める仕事に専念するためだ。「9年間で一番変わったのは私かも。自分らしさに妥協しない小林さんに教えられた。私も今、自分で自分の人生を決めている感覚がある」

 全国50カ所以上で自主上映会を開催し、約3千人が訪れた。16日から京都市中京区のアップリンク京都(075・600・7890)、17日から大阪市淀川区のシアターセブン(06・4862・7733)で上映される。(花房吾早子)

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