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 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種が子宮頸(けい)がんのリスク低下と関連していることを示した研究がスウェーデンから報告されました。HPVの慢性感染が子宮頸がんの原因です。ワクチンがウイルス感染や前がん病変を減らすことはこれまで複数の研究で確認されていましたが、子宮頸がんのリスク低下との関連が大規模な集団で確認されたのははじめてです。

 日本でもHPVワクチンは定期接種で受けられますが、副作用の懸念から積極的な接種勧奨が差し控えられており、残念ながら接種率は低いままです。これからスウェーデン以外の諸外国からも新しいエビデンスがどんどん出てきます。接種対象者には適切に情報が提供されることを望みます。

 さまざまな医療機関や自治体がHPVワクチンについて情報発信をしています。ありがたい限りですが、ときに「子宮頸がんはワクチンで予防できる唯一のがん」と言われることがあり、「おいおい、大事なワクチンを忘れてもらっちゃ困るぜ」という気持ちになります。前回はC型肝炎のお話をしましたが、B型肝炎も肝臓がんの原因になります。そして、C型肝炎と違ってB型肝炎には効果的なワクチンがあります。

 B型肝炎ウイルスは血液を介して感染します。原因がわかっていなかったころは輸血や注射針の使いまわしといった医療行為を介した感染がありましたが、いまではほぼありません。医療行為以外の主な感染経路は性行為や出産です。感染力は強く、ウイルス量が多い場合は、出産時に母から子へ感染する確率はほぼ100%です。子供が感染すると慢性化することが多く、B型肝炎由来の肝臓がんの多くはもともとは母子感染だったと思われます。

 B型肝炎ワクチンが開発されたのは1980年代です。日本では母子感染予防として1985年からB型肝炎ウイルスに感染しているお母さんから生まれた赤ちゃんにワクチンが接種されるようになりました。母子感染以外に感染経路があることがだんだんわかってきて、2016年から赤ちゃん全員が接種対象となりました。成人でも医療従事者などB型肝炎に感染する機会のある人はワクチンを接種します。私も大学生のころにB型肝炎ワクチンを接種しています。

 ワクチンは肝臓がん予防だけが目的ではありません。B型肝炎は肝臓がんだけではなく、急性肝炎や肝硬変の原因にもなります。成人になってからの感染は慢性化することは少ないので、成人のB型肝炎ワクチン接種はがん予防より急性肝炎の予防が主目的と言えます。一方でHPVワクチンははじめから子宮頸がん予防が主目的ですので、「子宮頸がんはワクチンで予防できる唯一のがん」という表現が出てきたのでしょう。

 感染対策やワクチンといった予防だけではなく、B型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス薬が使えるようになり治療も進歩しています。C型肝炎も治るようになったこともあり、すでに日本の肝臓がんは減り始めています。将来は肝臓がんはまれな病気になるでしょう。

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酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。