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 通学時、電車の窓から見た風景が原点だ。中学2年の冬、JR・南海電鉄新今宮駅(大阪市)の近く。ホームレスの人が並び、何かをもらっていた。

 どうしてたくさんいるんだろう? 何をしているんだろう?

 川口加奈さん(29)=大阪市北区=は不思議に思った。家族に聞いても、はっきりした答えはない。インターネットで検索し、食事を配る炊き出しのボランティアに参加し始めた。ホームレス状態の人を支援する「Home(ホーム)door(ドア)」を作ったのは大阪市立大生の時だ。翌年にNPO法人化し、雇用の場となるシェアサイクル事業や、無料宿泊施設も運営中。

 なんて経歴を聞くと、まるで聖人君子のよう。でも、「最初はおっちゃんたちに、失礼な質問もしましたよ。『がんばったらホームレスにならなかったんじゃないですか?』なんて」。

 夜に食事を届けると「よく来てくれた」と相好を崩すおっちゃんたちと話すうち、さまざまな家庭環境や、一度失敗すると再起が難しい社会の現状を知った。「がんばったら、ならなかった」とは思わなくなった。

 住居を失うと仕事に就けず、仕事がないと貯金できない。貯金がないと住居を得られない。この負の三角形をなくしたい。

 自転車修理を得意とする人が多いことから、就労支援シェアサイクル事業「HUB(ハブ)chari(チャリ)」を思いついた。ドコモ・バイクシェア社からシステム提供を受け、今は大阪市内を中心に230拠点を超えて広がる。

 2年前には、事務所と無料宿泊の機能を併せた「アンドセンター」を大阪市北区本庄東1丁目に開いた。相談し、心身を休めて今後を考えてもらう。「こんな場所があればいいのに、と高校生のころから思い描いた夢の施設です」

 昨年度の新規相談者は746人。コロナ禍で、今年は4月から半年で600人に上った。相談者の若年化が進んでいることや、女性、LGBTの人が増えているのが気がかりだ。

 一方、相談を受け、支えた人たちが生活を軌道にのせ、今度は寄付や手伝いなどで活動を支えてくれることが、うれしい。

 センターにカフェを併設するのが近々の目標だ。活動がホームレス支援のモデルとなり、全国に広がることを願う。

 最後の夢は、Homedoorを解散すること。「ホームレス状態からの脱出がもっと簡単にできるようになって、私たちのニーズがなくなること。それが一番です」(松尾由紀)

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 かわぐち・かな 1991年、大阪府高石市出身。現在は大阪市北区在住。趣味は旅行で、「Go To トラベル」を使って兵庫県・城崎温泉や京都市などに行った。9月に初の著書「14歳で“おっちゃん”と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた『働く意味』」(ダイヤモンド社)を出した。