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 新型コロナウイルスの感染が収まらない中、入院先の調整などを担う保健所で医師が足りていない。東京都内では3割ほどが空席や兼務となっており、新たな担い手を確保しようにも、医学生らの認知度不足が課題となっている。(荻原千明)

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 会議や打ち合わせで自席を外すと、決裁を求める資料が卓上に山積みとなる。大田区保健所の感染症対策課長、高橋千香さん(43)は、区内での新型コロナ対応の中核を担う。

 保健所の保健師や事務職員ら計約270人のうち、医師は所長を含めて4人。高橋さんもその1人だ。患者の接触歴の調査や健康観察を担う保健師、相談センターの電話対応を委託した先の看護師ら40人超のチームを統括。春先に新型コロナの感染が拡大して以降、日付が変わるまで帰宅できない日もある。

 業務は多岐に及ぶ。感染が判明した人と直接やり取りする保健師に指示を出すことに加え、高齢者施設や医療機関でクラスターが発生した際には、直接赴いて対策を協議する。区議会で施策を答弁したり、区の予算編成に向けて他部署と打ち合わせしたりすることもある。自宅療養中の患者の具合が悪化すれば、休日や深夜でも携帯電話が鳴り、病院に電話して患者の受け入れを要請する。

 保健所や役所で働く医師は、「公衆衛生医師」と呼ばれる。業務は感染症対策に限らず、食中毒を発生させた店への行政処分や予防接種、生活習慣病やがんの予防まで幅広い。

 「検診を受けやすくしたり、市民が体を動かしたくなるようなアプリを導入したりという施策を提言して、地域の人たちを元気にすることに貢献できる。地域全体を診断し、健康にするのが我々の仕事」と高橋さんは話す。

 ただ、公衆衛生医師の人数は足りない。都内31保健所や都庁、児童相談センターや健康安全研究センターで必要とされる公衆衛生医師は計169人なのに対し、実数は120人(4月時点)。3割を兼務や事務職員らが入って回している。大田区でも希望数に達していないという。

 都の担当者は「保健所の医師は、帰宅してからも気が休まらない。勤務時間外でも負担が生じ、体調を崩す人もいる」と明かす。

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 公衆衛生医師の不足は長年の課題だ。都は、年間を通じて面接や保健所見学の機会を設けているが、少なくとも5年間、都内全体で50人ほどが足りない状況が続いているという。

 その要因を都は「公衆衛生医師の仕事が知られていないため」と分析する。医師を志す学生の多くが思い描く将来像は、臨床医。厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、2018年末時点で行政機関に勤める医師は全体の0・6%(1835人)にとどまる。一般病院の臨床医より収入が低いことも人員不足の一因とされ、都によると、13年度時点で平均で年収500万円以上の格差が生じていたという。

 都は人材確保に向け、16年度、公衆衛生医師に関する手当を最大で月額約17万5千円から約26万9千円に拡大。公衆衛生医師が大学に出向いて講義をしたり、パンフレットや動画をつくったりしながら就職を呼びかけてきた。

 全国保健所長会の内田勝彦会長(大分県東部保健所長)によると、全国469保健所のうち、所長に限っても約1割が兼務という。自身を含め医師が所長だけの保健所もある。

 内田会長は「保健所で医師がなすべき仕事がある。新型コロナで注目が集まる中、公衆衛生医師の役割に目を向け、意欲を持つ人が現れるきっかけになってほしい」と話す。