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 津和野町北西部の木部(きべ)地区を舞台に、出演者、制作者がほとんど住民という映画が完成した。にぎわいを見せた昭和の時代から現在に至るまでの地区の変遷と、住民が文化や芸術に触れることの大切さを表現している。来月、町民向けの上映会が開かれる。

 作品は「エンターテイナー」。全編モノクロで60分の中編映画だ。ある日、木部地区に暮らす中学生の少年のもとに、旅芸人の男女がやってくる。将来作家を目指している少年は好奇心旺盛。かつてこの地区は近くにあった鉱山で繁栄し、商店が立ち並び、映画や大衆演劇の劇場があったことを知る。自転車に乗ったり、化粧をしたり、旅芸人と少年たちとの夏の短い交流を通じて、文化とは、芸術とは、そしてエンターテイナーとは何かを考える。

 制作したのは、2018年に東京から木部地区に移り住んだ映像クリエーターでミュージシャンの桑原宙(そら)さん(46)=同町長福。

 桑原さんが住民から参加者を募り、面談して出演者を決めた。出演者は旅芸人役の桑原さんを含め13人。脚本、撮影のほか、映画に絶え間なく流れるジャズやピアノ、ハーモニカなどの音楽も桑原さんが1人で選んだ。5月末から撮影を開始。9月末までに編集やアフレコが終わり、完成した。

 3日に木部公民館(津和野町中川)であった関係者向け試写会には、出演者やその家族など多くの町民が集まった。主人公の少年を演じた津和野中2年の田中文さん(14)は「この映画で木部の歴史を知ることができて良かった。笑いながらこんなことがあったんだ、と知ってほしい」。

 「ここは田んぼに囲まれたのんびりした町なんよ。昔はようけ人がおってね……」。ナレーションを担当し、映画にも出演した岡崎イヨさん(91)は「戦後まもなく津和野に嫁いできた。木部の長野と言えば銀座のようににぎやかだった」と、現在の同町長福のかつてのにぎわいを振り返った。

 桑原さんは、水俣病などの報道写真で知られる津和野町出身の報道写真家桑原史成さん(84)=東京都在住=の次男。映像クリエーターとしてアーティストや企業のPV(プロモーションビデオ)を手がけるほか、ミュージシャンとして年間100カ所程度のライブ活動などで全国を回っている。現在桑原さんが暮らすのは、史成さんや祖父母が暮らした家で、スタジオハウスにして活動の拠点にしている。

 完成した映画は桑原さんの生い立ちを盛り込み、喜劇俳優チャプリンの世界をほうふつとさせる仕上がりだ。桑原さんは「木部の街がこんなににぎやかだったと知ってもらい、若い人たちに芸術や文化と触れ合う心を忘れないでもらいたい」と思いを語った。作品は映画祭に出品される予定だ。(水田道雄)

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