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経済インサイド

 コロナ禍で期待が高まる、日本で開発された薬「アビガン」。安倍晋三前首相ら政権幹部が製造販売の承認に前のめりだった一方で、臨床試験は遅れた。実はこの薬が「発見」されたのは20年以上前。その後、注目されては忘れられ、という浮き沈みを繰り返してきた。発見から開発中止、そして新型コロナウイルスの感染拡大で再び注目されるまで。アビガンの数奇な運命をたどる。

拡大する写真・図版アビガン(一般名ファビピラビル)=富士フイルムホールディングス提供

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 「現在、富士フイルムで一番関心があるのは日本全国でアビガン。株主の希望の星だ。いつ市場に出せるのか」「気になる副作用はないのか」「国際共同治験はやらないのか」

「研究テーマすり替えに成功」

 6月末に都内で開かれた、アビガンを開発した富士フイルム富山化学の親会社、富士フイルムホールディングスの株主総会は活気に満ちていた。6人の株主が質問に立ち、うち4人がアビガンについて尋ねた。質疑後には株主から「頑張って」という声もかかる。最後は社長が「治療薬を早く届けたい。全力を挙げている」と話して総会は終わった。

 「発見」は20年以上前、1997年にさかのぼる。富山市にある富山化学工業の研究棟で、古田要介は顕微鏡越しにシャーレをのぞいて驚いた。「培養細胞がきれいな顔をしていた」。細胞同士の境目がなめらかで、細胞内部もにごりがなくスッキリとしていた。当時、古田の年齢は40すぎ。富山化学の研究員として、インフルエンザウイルスと薬の候補物質を混ぜた液体のなかで実験用の細胞を培養し、薬のタネを探していた。細胞が「きれい」なのは、この候補物質がインフルエンザウイルスに効き、細胞を守ったことを意味する。化学構造を改良し、翌年、「T-705」と名付けた。のちの「アビガン」だ。

拡大する写真・図版富士フイルム富山化学のフェロー・古田要介氏=富士フイルムホールディングス提供

 古田はこの5年前から、ヘルペスウイルスに対する薬を探索していた。だが、なかなか良い物質が見つからない。「いずれ、この研究はだめになる」。そう思い、97年から上司に内緒で別のウイルスに効く薬の探索を始めた。富山化学には薬の候補物質が約2万3千種あった。これらを一つずつウイルスと共に培養液に入れ、細胞を培養した。

 土日も昼夜を問わず実験を繰り返したが、週に700物質を試すので精いっぱい。5階建ての研究棟はいつも電灯がつき、地元で「灯台」と呼ばれた。経営陣が抗ヘルペスウイルス薬の研究停止を決める前に、なんとかアビガンにつながる物質を見つけた。「研究テーマをすり替えることに成功した」と振り返る。

 実験では、T-705は低い濃度でもインフルエンザウイルスの増殖を抑え、薬として申し分なかった。古田は「すぐに他の様々なウイルスにも効くことがわかった」と当時の期待感を話す。

開発止まっても、浴びた注目

 ところがその後、マウスを使った実験で胎児に奇形が出るおそれがあるとわかる。他社の抗インフルエンザ薬の開発が進んでいたこともあり、2002年、開発はいったん中止となった。

 通常、開発が止まった薬が復活することはない。だが、T-705はこの後、何度も世間から注目を浴びることになる。

 最初は、鳥インフルエンザの流…

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