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 今年のノーベル化学賞は「ゲノム編集」技術を開発した米仏の女性科学者2人に決まった。「ゲノム編集」とはどんなものだろう。岡山県内で、関連研究の最前線を走る重井医学研究所(岡山市南区)分子遺伝部門の松山誠部長(45)に、意義や県内から出ている成果を聞いた。

 ――ゲノム編集って聞き慣れない言葉です

 みなさん、中学の理科で「メンデルの法則」を学んだと思います。メンデルは親の形質が子に伝わる「遺伝」を担う因子の存在を示し、歴史に名を残しました。その後、この因子は細胞一つ一つの中にある「遺伝子」であると分かり、遺伝子を含む遺伝情報全体をゲノムと呼んでいます。ゲノム編集とは、遺伝情報を自由自在に変更する、ということ。動物の受精卵でゲノムを編集すれば、生まれてくる子の毛の色などを本来と違うものに出来ます。

 ――なぜノーベル賞を受けるほどすごいのですか?

 受賞対象になった発見を契機に技術が爆発的に進み、様々な生物の遺伝情報の書き換えが可能になりました。現在の医学では治せない遺伝病などの治療に大きな期待が持てます。また、病気のモデル動物を簡単に作ることで、医学の基礎研究を支えます。

 ただ、受精卵を操作する場合は母体から取り出し、一つ一つに針を刺すという高度な技術が必要で、受精卵が壊れやすいラットなどでは極めて困難という壁がありました。

 ――重井医学研究所ではどんなゲノム編集の研究を

 ノーベル賞に決まった方法に、東海大と鹿児島大、重井医学研究所が開発した国産技術を合わせ、より簡便で受精卵の生存率が高い技術を開発しました。

 この手法で、従来の方法では難しかったラットやハムスターなどでもゲノム編集が可能になり、応用範囲が広がりました。さらに、我々の手法では母体を生かしておけるので、実験動物の愛護にもつながります。

 私たちの研究テーマは腎臓病の解明ですが、マウスでは難しい高血圧や腎臓病の研究がラットのゲノム編集で容易になりました。その成果で、進行すると腎不全になる遺伝難病のモデルラットの作成に成功し、昨年学会で報告、賞も受けました。治療法の開発研究を始めています。

 ――でも、受精卵の操作や遺伝情報の書き換えとは何となく恐ろしくも感じます

 1978年に、世界で初めて体外受精児が誕生した時「試験管ベビー」と呼ばれ、宗教や生命倫理の観点から批判の声が上がりました。しかし、今では体外受精による不妊治療は当たり前になってきており、日本では新生児の16人に1人に上っています。

 よりよい医療の実現には、医学技術の進歩と、社会の認識の変化が両輪で進む必要があり、十分な議論がその動力になります。しかし、議論の土台となる「正しい理解」は、果たして十分でしょうか。

 例えば、コシヒカリなど日本のおいしい米は長年交配を繰り返す品種改良の努力によってもたらされました。品種改良は広い意味でのゲノム編集なんですよ。

 かみ合った深い議論のためには、生命科学について正しい理解を広げなくてはなりません。研究者には、その責務がある。難しいことですが、我々がその努力を放棄すると、時に技術が暴走することは、歴史が証明しています。その重みをかみしめながら、生命科学者の一員として、私も市民公開講座などの機会に努力しています。(聞き手・中村通子)

 まつやま・まこと 1975年愛知県生まれ。東京工業大卒、理学博士。理化学研究所(神戸市)や愛知県がんセンター研究所などを経て2012年、重井医学研究所へ。今年10月、鳥取大染色体工学研究センターの客員教授に就任。

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