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 高雅で気品に満ち、国際色あふれる美意識が花開いた奇跡の時代、それが天平の世だ。人々は以来、はるかな王朝文化やあつい信仰がはぐくんだ美の結晶に思いをはせ、あこがれた。10月27日に大阪市立美術館で始まる特別展「天平礼賛」。いにしえの遺産とそれを受け継ぐ美術工芸の名品に、令和のいま、私たちは出会う。

 奈良時代前半と重なる聖武天皇の代、その元号に由来する天平文化が咲き誇る。東アジアの一員として国づくりに邁進(まいしん)した律令期を貫く情熱は、空前の美の世界をも現出した。

 正倉院宝物を筆頭に、貴人がめでた典雅な美術工芸品の数々、端正で静謐(せいひつ)な精神性をたたえる仏たち。ときに海外の薫りが匂い立つ至宝群は、後世の美の担い手の感性をくすぐり続けた。彼らは天平芸術をどう顕彰し、自らの創造活動に取り込んだのか。本展は1300年に及ぶ美の命脈を、約120件の展示品によって紹介する。

 漆黒の肢体に金のきらめき。片足を垂らして腰掛けた菩薩(ぼさつ)の、なんと穏やかなお顔だろうか。龍華寺(りゅうげじ)(神奈川県)の菩薩坐像(ざぞう)は8世紀の、布を漆で貼り合わせる脱活乾漆づくりという手の込んだ技法でできている。

 この菩薩像が脇侍としてかつて寄り添っていたとみられるのが、金蔵寺(こんぞうじ)(兵庫県)の阿弥陀如来坐像だ。その表情は菩薩像にうり二つ。深く沈思し、凜(りん)とした意志さえ感じさせる。

 実はこの阿弥陀さま、制作当初のオリジナルは乾漆造の頭部だけ。首から下は江戸時代に補われた木像だが、それゆえに、天平の古仏に畏敬(いけい)の念で接した人々の思いがひしひしと伝わってくるようだ。

 聖武天皇は仏教の力による国家鎮護をめざし、全国に国分寺の設置を計画した。その精神的基盤が金光明最勝王経(こんこうみょうさいしょうおうきょう)である。高貴な紫の地に金の文字が並ぶ国分寺経(国宝)は静けさと力強さが拮抗(きっこう)し、まさに謹厳実直の見本といえる。正倉院裂(ぎれ)の極彩色で精緻(せいち)きわまるデザインに、東大寺戒壇院(かいだんいん)厨子(ずし)扉絵図像(重文)のすがすがしさ。天平びとの願いが込められた名品にはこと欠かない。

 正倉院宝物でもユニークな存在が、名香の誉れ高い香木「蘭奢待(らんじゃたい)」だろう。ここに出品されるのは、その一部と伝わる断片や模刻(もこく)品。どれほど多くの権力者が、この魔的な芳香に酔いしれる自分を夢想したことか。

 担当の児島大輔学芸員は「作品と作品の間にストーリーがひそんでいます。天平の名品と、それを守り伝え、新たなものを作り出した人々の歴史や思いを感じ取ってほしい」という。

 天平仏が鎌倉時代の仏師をも刺激したのは、名手快慶の手になる東大寺法華堂の執金剛神立像(しゅこんごうじんりゅうぞう)の模刻(重文)からもうかがい知ることができる。いわんや、近世近代の絵師たちがインスピレーションをかき立てられないはずはない。

 たとえば明治から昭和にかけて活躍した画家、藤島武二(たけじ)の「天平の面影」(重文)。都のたそがれどきを思わせる淡く柔らかな空気のなか、箜篌(くご)(ハープに似た楽器)を手にした女性がたたずんでいる。彼女は出番を待つのか、演奏を終えたのか。どこかうつろで悲しげなまなざしの先には、なにがあるのだろう。

 対して青木繁「享楽」の女たちは、妙になまめかしい素顔をのぞかせる。印象は違えど、いずれも画家が自らの理想のもとに天平の美を昇華した、在りし日の幻影である。(編集委員・中村俊介

 ◇10月27日[火]~12月13日[日]、大阪市立美術館(大阪市天王寺区、天王寺公園内)。午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)、月曜と11月24日[火]は休館(11月2日[月]・23日[月][祝]は開館)

 ◇一般1500円、高大生1200円

 ◇問い合わせ 大阪市総合コールセンターなにわコール(06・4301・7285)

 主催 大阪市立美術館、朝日新聞社

 後援 大阪観光局

 ※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、会期や展示期間を変更する場合があります。最新の情報は美術館ホームページ(https://www.osaka-art-museum.jp別ウインドウで開きます)でご確認ください