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 東日本大震災の直後から被災地の法的な問題と向き合っている弁護士がいる。大阪府出身の瀧上明さん(49)。被災者に寄り添った9年7カ月の歩みをたどると、震災がなければ起きなかった問題や、復興を妨げた課題が浮かび上がる。

 瀧上さんは震災前に兵庫県から釜石市に赴任。日本弁護士連合会が過疎対策で開いた事務所の所長として、2010年末まで任期を延長して4年間勤めた。

 東京の事務所に移った後、震災が起きた。命を落とした知人もいた。弁護士になった05年ごろも、阪神大震災後の借金を整理できない事業者がいたのを思い出した。「同じことが起きる」。11年7月に釜石市に戻り独自に事務所を構えた。

赤字で一度撤退

 東日本大震災後、住宅ローンがあっても一定の財産を残したまま被災した自宅が再建できる制度ができたが、十分に知られず、誤った情報も流れていた。仮設住宅を回って被災者に伝え、金融機関にも窓口で説明するよう働きかけた。

 弁護士費用は「払えるだけで」と安く設定したこともあり、経営は赤字だった。貯金を使い果たしたため14年に撤退したが、東京に戻っても被災地が気になった。16年夏、思いを共有する友人の弁護士と会社を立ち上げ、陸前高田市に事務所を開設した。

訪問し悩み聞く

 震災5年を経た被災地では復興事業の遅れが目立った。陸前高田市は約1500戸の仮設住宅に約3千人が住んでいた。瀧上さんは市の委託で全団地を回り、戸別訪問し悩みを聞いた。

 独り暮らしの高齢女性は切ない声で「ここで死にたくない」。ある中年男性はストレスがたまったのか「夜中に叫びたくなる。迷惑だから車に入って叫ぶんだ」と打ち明けた。

 離婚を切り出せない女性も増えていた。収入の減った夫から暴力を受けながらも逃げ場がない。ある女性は「絆、絆って言うけど、家族の絆はなくなった」とつぶやいた。

手続き煩雑課題

 陸前高田市の復興事業が遅れた大きな原因に、土地を巡る手続きの煩雑さがあった。「集団移転や区画整理の制度は、こんな大規模で多数の地権者の整備を想定したものではない」と瀧上さん。野球場を造るために民有地を買収しようとしたが、一つのベース周辺の土地だけ所有者の居場所がわからず、瀧上さんも一緒になって捜し回った。

 復興事業で買い取ろうとした土地が、登記手続きが何代にもわたり放置され、数十人の相続人がいた例もある。「もし東京で同じことが起きたら、権利関係の複雑なマンションなどはもっと大変だろう。今のうちに制度を考えておいたほうがいい」と話す。

 昨秋から「他の弁護士が来ない所に」と再び独立して大槌町に事務所を構えた。相談者の1人は「身近にいると頼みやすい」。事務所の採算を考えるとやはり苦しいが、瀧上さんは「法的に守ってあげなければならない人はたくさんいる」と強調する。(東野真和

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