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 相模原市中央区で、小学校2年生に相当する1人の医療的ケア児の未就学状態が続いている。就学先をめぐり、「地元の市立小学校に」と望む両親と、「専門教育が受けられる神奈川県立の特別支援学校が適切」とする市教育委員会との間で折り合いがつかないからだ。

 佐野涼将(すずまさ)君(7)。母の綾乃さん(42)が出産時に早期胎盤剝離(はくり)になり、涼将君の脳にダメージが残ったという。人工呼吸器を装着し、栄養摂取はチューブで胃に送る「胃ろう」。定期的なたんの吸引も必要だ。

 父の政幸さん(44)と綾乃さんによると、涼将君は意思表示をする際にかろうじて手の指の一部を動かすことはできるが、発語はなく、一般的に感情は読み取りにくい。両親は、涼将君が将来、自立生活を送ることを想定し、どうしたら周囲に意思や感情をうまく伝えられるようになるか考えた結果、「特別支援学校ではなく、生まれた地域で他の子どもたちと同じように過ごすなかで育つことが大事」と、普通校への就学を目指すことにした。

 両親は市教委との就学前相談で、地元の小学校への就学を希望。人工呼吸器をつけた児童の普通校就学は同市では「初めて」(市教委)になるため、市教委青少年相談センターの水野正人所長は「安全面の環境が整っていない中で万一のことを考えたが、両親の強い思いを踏まえて、異例中の異例の措置で就学を前提に取り組んだ」と話す。

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 市教委は、小学校の病弱児学級での受け入れも想定して取り組んだ。涼将君は2019年度、特別支援学校に籍を置きつつ、毎日ではないが地元の小学校へ出向き、運動会などの行事に参加。市教委は特別支援学校との「共同学習」になるように、医療的ケアの実施や個別の指導計画、特別支援学校の担当者による小学校への助言などを盛り込んだ年間の計画表をつくり、20年春の普通校への転校に向けて準備を進めてきた。

 だが、涼将君の小学校での活動を支援する態勢が整わず、計画が頓挫。市教委は、文部科学省の「保護者が普通校への就学を望んでもかなわないケースはある」との見解を踏まえ、「安全・安心な教育環境を確保することは困難」と判断。特別支援学校への就学が教育的ニーズに合致するとして、地元の小学校への転校を認めなかった。

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 普通校への就学実現には、看護師配置などで経費がかかるという現実もある。水野所長は「ご両親のお気持ちは深く理解するが、限界もある。理想と現実に乖離(かいり)があり、ただ受け入れるだけでは無責任になる。断腸の思いだ」と話す。市教委は、引き続き特別支援学校に在籍するとしても、小学校の同学年の児童らとの交流と共同学習で、引き続き登校を認めると提案しているが、両親は受け入れず、特別支援学校にも通っていない。

 同様の事例をめぐっては、川崎市在住だった医療的ケア児と両親が地元の普通校への就学を求め、同市教委が認めないと判断。児童側は神奈川県と市を相手取り提訴したが、今年3月に横浜地裁が請求を棄却した。その後、転居先の東京都世田谷区で普通校への就学が実現している。相模原市教委はこの裁判を受け、同区教委に聞き取りを実施。そのうえで、涼将君の学びの場としては特別支援学校が適切だとの判断を維持している。

 新型コロナウイルスによる休校が明けて学校が再開された6月以降、涼将君は両親とともに、地域の子どもたちとの集団登校を自主的に実施。昇降口から校舎内に入る同級生らを見送るだけの状態が続く。

 政幸さんは「計画表までつくって進めてきたのに、急にだめになったと言われても納得がいかない。津久井やまゆり園で殺傷事件が起きた相模原市として、(障害のある人とない人がともに学ぶ)インクルーシブ教育にどう対応するのか、市の姿勢が問われる問題ではないか」と話す。一方で、「時間だけが過ぎていき、先行きの見通しが立たないことで焦りを感じる」とも打ち明ける。(岩堀滋