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 肝炎にはB型肝炎やC型肝炎がありますから、A型肝炎もあります。A型肝炎は、B型肝炎やC型肝炎と違って慢性化せず、よって肝硬変や肝がんの原因にもなりません。しかし、黄疸(おうだん)や倦怠(けんたい)感を伴う急性症状を起こし、重症化して命を落とすこともあります。まれですが肝外病変といって肝臓以外の臓器にも障害を起こし、急性腎不全やギランバレー症候群の原因にもなります。

 主な感染経路は経口感染です(B型肝炎とC型肝炎は血液感染が主です)。患者さんの肝臓で増えたA型肝炎ウイルスは、胆汁に混じって腸管を通り最終的に糞便中に排出され、それが口に入ることで感染し、A型肝炎を発症します。上下水道が完備していない発展途上国では飲み水を介してA型肝炎が流行します。抗体の有無でA型肝炎に感染したことがあるかどうかわかるのですが、流行地域では成人のほとんどが抗体を持っています。

 衛生環境が改善した現在の日本ではA型肝炎は珍しくなりました。A型肝炎に対する抗体の保有割合を調べると、高齢者ほど抗体保有割合が高く、かつては日本でもA型肝炎が流行していたことがわかります。現代に近くなるほど高年齢層にシフトしています。

拡大する写真・図版A型肝炎抗体保有状況の推移(http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/368/tpc368-j.htmlより引用)

 ただ、このグラフでは2003年のデータまでしか提示されていません。2020年の現在では、高齢者層も抗体保有割合は低いでしょう。A型肝炎の抗体は防御抗体でもありますから、抗体保有割合が低いことは感染しうる人が多いことを意味します。高齢者はA型肝炎にかかると重症化する確率が高いので注意が必要です。

 大規模な流行こそありませんが、現在の日本でも散発的に年間数百人のA型肝炎の発生があります。感染の主な原因は飲み水から食品や性行為に変化しました。貝類のカキがA型肝炎の原因になるのはよく知られています。カキは大量の海水を濾すことで餌を取りますがその過程でウイルスを蓄積します。感染した人がトイレに行ったあと手洗いが不十分で、ウイルスに汚染された手で調理された食品からも感染します。このあたりはノロウイルスと似ています。

 A型肝炎が流行している地域に旅行して感染するケースもあります。A型肝炎に対する特別な治療法はありませんが、ワクチンで予防は可能です。A型肝炎が流行している地域に旅行するときには生水や加熱していない食品を避けるとともに、事前のワクチン接種をおすすめします。現在の日本で普通の生活をしている場合はリスクは大きくなく、ワクチンの必要性は低いです。流行地域においても優先順位の高い対策はワクチンではなく上下水道の整備による安全な飲み水の確保です。A型肝炎だけではなくコレラなどの他の感染症の対策にもなります。日本でA型肝炎が減ったように世界中でも減ることを望みます。

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拡大する写真・図版内科医・酒井健司の医心電信

酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。