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 この秋、東北や北陸など各地でクマが出没し、中には住宅街で人が襲われる被害も発生している。青森県内での今年の人身被害はこれまで4件で、昨年の同じ時期より1件少ないが、ブドウやリンゴなど農作物への食害は昨年より増えている。県や専門家は、入山や畑仕事の際は出没情報に注意し、万が一のために撃退スプレーを携帯するよう呼びかけている。

 青森県むつ市川内町のワイン醸造会社「サンマモルワイナリー」は「下北ワイン」で知られる。同社から約2キロの丘陵に広がる約11ヘクタールのワイン用ブドウ畑は、数年前からクマによるものとみられる食害を受けてきた。

 今年も9月2日、畑の北端、山林に接している場所で最初の食害を確認。畑を管理する同社のグループ会社「エムケイヴィンヤード」の築舘文徳・圃場(ほじょう)管理部長は「主犯」を突き止めようと、カメラをつけてみることにした。5日、動体感知型の監視カメラを食害のあった畑の近くに設置すると、その日の深夜から6日未明にかけて、カメラはクマの姿を捉えていた。

 映像には両目を光らせたクマが後ろ脚で立ち、畑の外周を覆う動物よけネットを押し下げるようにして乗り越える様子が録画されていた。山林との境のフェンスの木製支柱を、ずうずうしいほど悠然と上ったり下りたりする姿もくっきりと映っていた。

 その後も連日、カメラはクマの姿をとらえた。狙われたのは白ワイン用の匂いの強い品種だけ。10月に入ってその品種の収穫が終わると、隣接する赤ワイン用のブドウが被害を受け始めたという。

 被害は約5千房(約400キロ)、金額にすると数十万円に及ぶ。一定の時間をおいて大きな音を出す爆音機や、動きを感知すると音や赤色光を発する防犯センサーなども設置しているが、「一瞬、音にびびったような様子が(カメラに)映っていたんだけど、2日ぐらいですぐ慣れて全然気にしなくなった」と築舘部長は話す。

 「やはり人的被害が一番怖い」という築舘部長は、社員やパートの人たちに、「一人だけで畑作業をしないように」と呼びかけている。

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 県によると、今年のクマの出没件数は10月22日時点で414件。前年同時期を5件上回っている。目撃件数は338件と42件減っているが、食害は72件で、前年同時期より48件増加している。

 人身被害は前年同期より1件少ない4件。5月に弘前市、7月は田子町でいずれも山菜採りの男性が顔や腕をクマに引っかかれるなどのけがをした。8月は2件で、いずれも弘前市のリンゴ園で作業中だった男性が顔や手にけがをしている。

 今年の出没件数を市町村別でみると、10月5日時点でむつ市が104件で最も多い。八戸市は昨年1年間で14件だったが、今年は10月5日時点で56件と大幅に増えている。県自然保護課は「八戸市での増加の原因は明確にはわからないが、クマの行動範囲が年々広がっているとみられる」としている。

 昨年1年間で出没が94件あった深浦町は、10月5日時点で28件と少ない。同町大間越地区では昨秋、住宅地近くのクリやクルミの木に登るクマが頻繁に目撃され、9月に自宅のすぐそばで70代の男性がクマに襲われ、顔などに大けがをした。同じ地区の小さな畑でイモなどを育てている女性(93)は「今年はまだクマを見ていないけど、毎日のように畑に行くので、やっぱり怖い」と話す。

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 NPO法人日本ツキノワグマ研究所(広島県)の米田一彦理事長(72)は十和田市出身。秋田県自然保護課などで勤務し、退職後に同研究所を設立してクマの研究を続けている。

 米田理事長は、青森県で秋の食害が増えていることについて、「東北の他県や北陸なども同じだが、食害が目立つのは単純に山にクマのエサとなるドングリなどが少ないから」と話す。エサ不足になると山の奥にいる大きなオスが少し下りてくる。すると母グマや若いクマも人里近いところに出てくるという。米田理事長は「里山がかつてのように管理が行き届かず、人がいなくなり、クマが活動できる範囲が広がっている。そこで繁殖していくのだから、個体数は増えてしまう」とも話す。

 米田理事長は「エサ不足で食本能に目覚めているクマはとても危険で、人間への重大な事故がおこりかねない」と注意を呼びかける。山に入ったり、山林近くで農作業をしたりする時は「クマ用の撃退スプレーを持参してほしい。(遭遇した直後の)5秒、10秒が大切。ひと吹き目が勝負」と話している。(武沢昌英)

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