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 高校野球の秋季近畿地区大会は24日、わかさスタジアム京都で1回戦があり、2連覇を狙う天理(奈良1位)が乙訓(京都2位)に2―1で競り勝った。25日の準々決勝は昨秋の決勝で戦った大阪桐蔭(大阪1位)と対戦する。

 同点に追いつかれた直後だった。八回の攻撃前の天理ベンチ。中村良二監督は選手を集めると、自分の帽子を脱いで、つばに書かれた文字をしばらく見せた。

 「笑」

 言葉はいらなかった。こわばっていた選手たちの表情が、次々に和らいでいく。打席に立つと、思い切りのいい、いつものスイングが戻っていた。

 今秋の県大会が終わった直後の今月9日、前監督の橋本武徳さんが75歳で亡くなった。奈良に初めて深紅の優勝旗を持ち帰った名将だった。中村監督が1986年夏の甲子園で優勝したときの恩師でもあり、退任後は総監督として部を見守ってくれた。

 「笑」の文字は、その橋本総監督が県大会が開幕する前に書いてくれたもの。「お前が笑っていれば勝てるわ」。そう言って、油性ペンで太々と書いてくれた。亡くなる前日も病室で30分ほど二人っきりに。最後の最後まで野球の話をしていたという。

拡大する写真・図版天理の中村監督と橋本前監督が帽子に書いた「笑」の文字

 「今の選手からすれば、優しいおじいちゃんみたいな存在だった。橋本先生がよく言っていた『ぼちぼちいこか』とは僕にはとても言えないけれど、選手たちにも笑顔でプレーしてほしかったんです」

 九回2死二塁。それまで無安打だった堀内太陽(2年)に適時三塁打が飛び出し、勝ち越しに成功。エースの達孝太(2年)がその裏を締め、13奪三振で完投した。「先生に勝たせてもらった。次も喜んでもらえるように頑張りたい」。試合後、中村監督は「魔法の文字」を見つめながら言った。(山口裕起)

拡大する写真・図版9回1失点で完投した天理の達孝太