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 元社員(89)が顧客から19億円をだましとった疑いのある問題で、第一生命保険は3年前に社員の不審な取引の情報を得て調べていたことがわかった。事実確認できず調査を終えたが、その後も被害が複数発生した。金融庁は調査やその後の対応について報告を求めており、内部管理体制が適切だったか問われそうだ。

 第一生命によると、元社員の女性は山口県内で保険を半世紀以上売ってきた。10年以上前から今年4月まで、少なくとも顧客21人から19億円を不正にだましとった疑いがある。自分に認められた「特別枠」を使って高金利で運用する、とうその話を持ちかけたという。

 同社はこれまで、被害客から6月に連絡を受けて調査を始めたと説明。しかし、金融庁が実態把握のために同社から受けた報告などによると、地元の山口銀行が2017年、特別枠などについて第一生命へ問い合わせていたとわかった。特別枠の勧誘を受けた取引先の話を融資担当者が不審に思い、連絡していた。

 第一生命は朝日新聞の取材に、3年前に調べた事実を認めた。山口銀行からの連絡後、元社員、勤務地の第一生命徳山分室の同僚、勧誘された取引先らに、本来は存在しない特別枠を銘打った営業があったかなどを聞き取った。いずれも「聞いたことがない」などと否定。山口銀行にも再度確かめたところ、「うわさ話を問い合わせただけ」と言われ、調査は打ち切りに。元社員のほかの顧客については調べなかった。

 また、山口銀行も取材に対し、第一生命に当時問い合わせたことを認めた。

 元社員は調査後も、特別枠を持ちかけて複数の顧客からお金を集めていた。第一生命に損害賠償を求めて提訴した山口県内の女性2人は、調査後に勧誘を受けていた。3年前に実態をつかめていたら被害を減らせた可能性もあるが、第一生命は「その時点で関係者がすべて否認した。被害を確認できないなかで当時できることはやった」と取材に回答。同社によると、被害客には、積み立てた保険料をもとに契約者がお金を借りる「契約者貸し付け」制度を使い、引き出したお金をだまし取られた人もいた。

 元社員は全国でも指折りの販売実績を持つ「優績者」で、役員のような個室を保有。定年上限の80歳以降も「(顧客の)引き継ぎが難しい」との理由で、社内唯一の「特別調査役」の役職を与えられていた。こうした優績者に、「ものがいえない企業文化」がなかったかどうかについても金融庁は報告を求めている。

 第一生命は7月3日付で元社員を解雇し、8月に山口県警へ詐欺容疑で刑事告発した。金融庁は保険業法に基づき報告を求める命令を10月に出しており、結果を踏まえて行政処分を考える。(柴田秀並)