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推し人 守安収館長

 画面に墨を注いでできる偶然の形をいかした「溌墨(はつぼく)」で、山を描いています。唐代の中国で始まった技法で、墨のにじみや、かすれで立体感を表現している。当時は前衛的でした。現代なら絵の具をカンバスにたたきつけるようにして描く「アクションペインティング」のような感じでしょうか。

 岡山で生まれたとされる室町時代の水墨画の巨匠・雪舟(1420~1506?)が、60代の頃の作品。雪舟が、師と仰ぐ中国の画僧・玉澗の作風で描き、円窓型の枠の外側には玉澗の名が記されています。

 禅僧の雪舟は当時、売れっ子の画家でもありました。この作品は、依頼主にどの作風を選ぶか決めさせるための「見本帳」の一つで、弟子にとっての「手本」でもあったようです。見本帳には玉澗や夏珪(かけい)、李唐(りとう)ら6人に倣った12点があったことが知られています。

 偶然性が高い溌墨ですが、それでも当時の雪舟には、思い通りの形を作る技術がある程度はあったはず。紙、墨、筆のそれぞれの深い知識をかみ合わせて計算しなければ、山をこれほどまでに描くことはできないでしょう。

 一方、樹木や建物、小舟は筆で描かれ、料亭を示す旗など抽象的な表現で見る者の想像力をかきたてます。

 開館6年前の1982年、館の構想段階で、県は「目玉」にしようと旧財閥家から5千万円で購入しました。以来、大切に扱ってきましたが、この作品のおかげでいくつものご縁が生まれました。

 玉澗の「廬山図」もその一つ。93年の特別展で作家の故・吉川英治氏の遺族から借用し、その後に10億円で購入しました。「本歌取り」の「本歌」ともいえる玉澗の作品ですが、「岡山なら」と託してくださいました。

 これら水墨画の名品があることで当館は世界的に知られ、他館の著名な作品を借りることにもつながっている。生誕600年を迎えた雪舟は、郷土岡山が誇る画家というだけでなく、私たちと各地の名作をつなぐ「恩人」とも言えるでしょう。(構成・菅野みゆき)

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 山水図(倣玉澗)、廬山図とも、来年2月からの特別展「雪舟と玉堂――ふたりの里帰り」で展示予定。常設展は一般350円、大学生250円など。岡山市北区天神町(086・225・4800)。JR岡山駅から徒歩15分。月曜休館。

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