【動画】踊るトランプ氏。熱狂する支持者。選挙集会を記者が訪ねた=青山直篤撮影
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 「ここはとてもセグリゲート(分離)された街なんだ」。古い集合住宅が密集する夕暮れの街並みを眺めながら、アンドリュー・ジャクソンさん(20)がつぶやいた。米東部ペンシルベニア州のヨーク市。ジャクソンさんは、自動車修理店で学費と生活費を稼ぎながら大学に通う黒人青年だ。

 「セグリゲート」とは、人種や豊かさによって、住む場所が分かれているという意味だ。国勢調査のデータを元に人種や所得で色分けした地図「Justice Map」を見ると、その意味がよくわかる。

 ヨーク郡の中心地であるヨーク市内は黒人やヒスパニック系らマイノリティーが住民の6割超を占め、赤や青のモザイク模様になっている。一方、市外は白人住民が多いことを意味する紫一色だ。市中心部の世帯所得(中央値)は約2万2千ドル(約230万円)だが、市外は6万ドル(約628万円)以上の地域がほとんどだ。

 ジャクソンさんは「街の外の人たちは最悪の場所のように言うけど、僕はそうは思わない。ここには人のつながりがある」と言う。

 大統領選挙を前にした両候補の支持も、市の内外では対照的だ。市内はバイデン前副大統領を応援する民主党支持者が多いが、市外は共和党支持者が多く、車を走らせれば、各家の庭にトランプ大統領支持をアピールするヤードサイン(看板)が並ぶ。

 記者は8月からヨーク市内に部屋を借り、住みながら取材を始めた。部屋がある家は市街地と郊外の境界付近に位置し、まさに分断された米国の境界上にある。古い集合住宅が密集する区画から隣の区画に入ると、景色が一変し、通りの両側には芝生の庭付きの一戸建てが立ち並ぶ。

 白人とマイノリティー。富める者と貧しい者。都市と地方。共和党支持者と民主党支持者――。ここに住むと、「二つの米国」の姿がはっきりと見えてきた。

「郊外の住民が見たら別の国」

 米ペンシルベニア州は大統領選の激戦州だ。州南部に位置するヨーク市の人口は4万4千人。ヨーク郡の中心地として行政機能が集中する一方、都市部が荒廃する「インナーシティー問題」を抱える。

 中心部がさびれたのは、戦後に製造業が衰退し、白人中流層が郊外へと移転していったからだ。一方で、空き家が目立つ市内には近年、家賃など生活費の安さに引かれ、ヒスパニック系の住民が大都市から移住してきている。市内には貧困が集中し、1970年に10%だった貧困率は、35%まで上昇した。

 夕方になると、若者がバイクで集団走行する音が街中に響く。ギャングによる抗争や犯罪が深刻で、毎週のように銃撃事件でけが人や死者も出ている。

 「郊外の住民から見たら、ヨーク市は別の国のように見えるだろう」。ヨークを調査した都市計画の専門家デビッド・ラスク氏は、報告書にそう記した。

 そんな街で今、格差や貧困の問題をさらに増幅させているのがコロナ禍だ。

 市内のあちこちで、教会やNGOが食料を配布している様子を見かける。最大規模の活動をしている「ヨーク郡フードバンク」では、以前は週に400世帯分を配布していたが、新型コロナの感染が拡大した3月下旬以降は、2千世帯分に増えたという。

 「いま来ている人たちの中には、『人生で初めてフードバンクを利用した』という人たちがたくさんいます」と責任者のザック・ウォルゲムスさんは語る。

 ヨーク市内は民主党が強く、あちこちの窓や庭先にはバイデン前副大統領を支持する看板がある。市の中心部近くに住む黒人女性リーシャ・キングさん(57)は、米国の現状を「まるで二つの国のようだ」と語る。分断をあおっているのは、トランプ大統領だと思っている。働いている郊外の病院では、トランプ大統領を支持する同僚もいるが、政治の話はしない。

 ヨークでは69年、差別を受けてきた黒人住民と、警察や白人住民が衝突した「ヨーク人種暴動」が起きた。幼かったキングさんも、流れ弾を避けるために床に伏せて夜を明かしたことや、窓から見た装甲車両を覚えている。

 「トランプはまるで、あの時代に戻ろうとしているかのようです。分断と人種的な憎しみを容認しているのです」

 11月3日の投開票日が近づく中で、市内の様々な市民グループが呼びかけているのが、投票することだ。

 2016年の大統領選挙では、ヨーク郡全体の登録有権者のうち70・8%が投票したが、ヨーク市では49・5%にとどまった。有権者登録をしない人もいるので、ヨーク市の有権者全体でみると、投票率は4割程度に下がる計算だ。

 10月24日、街の清掃活動をしながら市民に投票を呼びかけるイベントが開かれた。呼びかけたフェリシア・デニスさん(40)は言う。「私たちマイノリティーは『(社会に)含まれていない』と感じるときがあります。特に若者には、一票を投じても何も変わらないという思いがある。しかし、参加しなければいつまでも『含まれない』ままです」

「それがアメリカンドリームでしょう?」

 ヨーク市を出て車を走らせると、やがて車窓から見えるのは、トランプ支持のヤードサイン(看板)一色となる。市内は民主党支持者が多いが、ヨーク郡のほかのすべての地域は、共和党の金城湯池だ。

 郡南部の町ハノーバーに入ると、中心部でトランプ大統領支持の旗を振る20人ほどの人たちがいた。行き交う車がひっきりなしにクラクションを鳴らす。応援の意思表示だ。

 「ヨークでこんな景色、見たことありますか?」

 旗を振っていたアリス・ウェルドンさんは、誇らしげに語った。もともとは大都市のボルティモアに住んでいたが、1990年代後半に車で1時間のハノーバーに家族で越してきた。

 トランプ氏はいま、「郊外に低所得者向けの公営住宅建設を許す規定を、私は撤廃した」と強調している。「セグリゲーション(分離)を公然と支持するものだ」と批判を招いたが、選挙集会では毎回、「成果」としてアピールしている。

 ウェルドンさんは「郊外に住む人たちは、一生懸命働いてお金を稼いで家を買ったんです。より良い生活を求めて都市から移ったわけだし、そうした生活をするに値すると思います」と語る。「それがアメリカンドリームでしょう? 私は不動産の仕事をしていたから知っていますが、公営住宅が近くにできたら不動産価格も下がるんですよ」

前回選挙は1票差 家庭内不和も

 米国の大都市周辺では、郊外に共和党と民主党の支持者が混在する地域が広がる。ヨークのような小さな町の場合、市街地を出るとまもなく農村地帯になるが、狭いながらも両者が混在する地域は存在する。

 ヨーク市を出てすぐのところにある住宅街。10月中旬、マスクをした2人の選挙ボランティアが、民主党支持者の家を回っていた。新型コロナウイルス対策のため、ドアはノックせず資料を挟み、庭に出ている人にだけ、距離を置いて声をかける。

 「バイデン氏支持に勢いはありますが、前回選挙のことがあるから油断はできません。前回は、クリントン氏が優勢だから自分は投票しなくても大丈夫と考えた人たちがいました」

 歩きながら、デボラ・ヨニックさん(57)は話した。トランプ政権の4年間で国は分断され、世界からも尊敬されなくなったと感じている。影響は家族にも及んだ。トランプ氏を支持する父親との関係は冷え込み、政治の話は互いに口にしなくなった。

 家々の庭先には、トランプ氏支持とバイデン氏支持のヤードサインが、競い合うように並ぶ。前回2016年の大統領選挙でこの地区の得票は、トランプ候補が634票、クリントン候補が633票で、その差はわずか1票だった。

 もう一人のボランティア、ジャッキー・ウィルソンさん(63)はこう語った。「ペンシルベニア州は大統領選挙のグラウンド・ゼロ(中心地)です。勝たなければなりません」(ヨーク〈ペンシルベニア州〉=大島隆)

ペンシルベニア州勝利なら大統領選も勝利?

 トランプ、バイデン両陣営はと…

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