若松真平
2005年5月、愛知県春日井市で木工会社を経営していた山田尚さんは、胃がんと宣告された。
当時48歳。3カ月後に手術を受けて、胃の3分の2を摘出した。
このころから、妻の早苗さん(55)に対して、「僕には時間がない」と言うようになった。
車好きな尚さんだったが、父から「いい車に乗ってたら得意先から何を言われるかわからんぞ」と言われ、控えめな車種を選んで乗っていた。
買うなら今しかないと、発売直後から憧れていたホンダ「NSX」の中古を500万円で買った。
事前に相談を受けていた早苗さんは、自分でためていたお金で買うのだから口出しはしませんよ、と伝えていた。
NSXの中でも人気の赤いボディーを探したが条件が合わず、1991年式の黒を選んだ。
早苗さんの第一印象は「ゴキブリみたい」。低い車高で平べったく、黒光りしている車を見て、そう思った。
助手席に乗って走り出すと、地面すれすれのような低い目線と、スピードにのった時の風を切る感覚が気持ちよかった。
ある日、信号待ちで隣に赤いNSXが止まったことがあった。
見ず知らずだったが、互いに手…
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朝日新聞社会部