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 日本人が大好きなマグロの市場に旋風を巻き起こそうと、静岡市清水区の漁業者が動き出した。冷凍では国内最多の水揚げ量を誇りながら、全国的な知名度はいま一つといわれる清水マグロ。でも「おいしさでは負けない」と、大学と協力してブランド化をめざす。

 JR清水駅にほど近い魚市場「河岸(かし)の市」。仲卸業者が営む20店が軒を連ねる中、主役を張るのはもちろんマグロだ。

 隣接の食堂棟では15店が営業。メガ盛り3776円のサンプルを見た大阪から来たという男性観光客は、「富士山の向こうを張った値段だね。日本一かどうか試してみたい」とのれんをくぐった。

 清水港(静岡市清水区)は「全国一のマグロ集積地」と呼ばれる。冷凍マグロの昨年の水揚げ量は9・34万トン。ほとんどが南太平洋やインド洋など遠洋で取れたものだ。清水漁港振興会によると、漁港別では国内最多。刺し身マグロ総供給量の33%を占める一大市場だが、青森・大間や三崎、銚子など他の産地に比べ話題性に劣るのが悩みだ。

 そこで「もっと魅力を前面に打ち出せないか」と地元の漁業関係者が立ち上がり、市の協力を受けながら清水マグロのブランド化に取り組むことになった。「おいしさ」という観点から、他のマグロと差異を付けて、存在感を示そうと、東海大海洋学部(清水区)の後藤慶一教授(食品科学)に相談を持ち込んだ。

 元食品メーカー研究員の後藤教授は科学的分析に基づいた「うまさの特徴」の追求を提案。味、色、香り、食感を評価する「官能評価」と、脂質や水分、硬さなどを計測する「理化学分析」を用いた品質実験を9月から始めている。

 市場関係者らが参加し、清水港に揚がったメバチマグロの刺し身を使った「官能評価」では、57項目について検査。回答を集計した結果、ほどよく脂がのり、若草のようなにおい、桜色、きめ細かな歯触りが高い評価を得たという。

 「理化学分析」では15項目の検査をおこなった。両検査で得られた膨大なデータを基に数値をはじき出し、「おいしさ」に向けた統一基準づくりを進めている。後藤教授は「マグロのうまさはこれまで個人の好みや値段などの主観や情報量で判断されてきた。客観的な尺度をつくれば、清水マグロの品質の高さをアピールすることは可能」と言う。

 研究を後押しする市水産漁港課しずまえ振興係によると、今年度中に評価モデルを確立し、来年度以降に評価を実践していく。担当者は「将来は果物の糖度表示や牛肉の等級表示のように、消費者が見てわかるマグロのおいしさの可視化をめざす」としている。

 マグロの漁獲と水揚げを手がける「海王丸漁業」清水出張所の中村誠一朗漁労部長(45)は、今回の研究成果に大きな期待を寄せる。「日本の食卓で口にするマグロの大半が実は清水で水揚げされたものなんです」と力を込める。

 これまでは格付けや値段で悔しい思いをしてきた。同じマグロでも、清水産がキロあたり1500円前後なのに対し、大間産は1万円。「あちらは別格。でも新たな指標ができれば、清水マグロの隠れた実力を引き出すこともできる。選(え)りすぐりのマグロを提供し市場を驚かせたい」。中村さんらの挑戦は続く。(中村純)

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 マグロのうまさを科学的に追求する動きは加速している。回転ずしチェーンのくら寿司は、仕入れ時に品質を自動的に判定する人工知能(AI)アプリシステムを取り入れた。

 導入したAIアプリは、電通などが開発した「TUNA SCOPE(ツナスコープ)」と呼ばれるシステム。マグロは魚体ごとに鮮度や味が異なり、これまではプロの買い付け人が尾の断面を見て、経験を頼りに脂ののりや身の締まり具合を評価してきた。

 AIは、マグロの尾の断面画像と目利きで判断した結果のデータを蓄積。アプリが尾の断面画像を読み取ると、「A(最上級)」「B(上級)」「M(並)」の3段階に品質を瞬時に選別できるという。職人が判定した場合と比べて、誤差は1割程度に抑えられると見込む。

 同社は、新システム導入に伴い、これまでは人力のみに頼ってきた「品定め」部分の省力化が期待できるとしている。

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