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 出場選手登録の履歴が、楠本泰史の現状を物語る。今シーズン、抹消と登録は3度繰り返された。大卒3年目。依然、1軍とファームの境界線をしばしばまたぐ立場だ。

 3度目の抹消は8月22日。その直前、ある問いが楠本の頭をよぎる。「自分の強みって、何だったんだろう?」

 絶えず打撃向上の努力を続けてきたが、改良を重ねれば重ねるほど、元の姿からは離れていく。望む地位に近づけていればよいが、その実感は薄い。行き詰まり、ふと過去を思い返すと、入団時の自身の姿はおぼろげだった。

 楠本は1軍打撃コーチの田代富雄に歩み寄った。浮かんだ疑問をそのままぶつけたわけではない。あくまで技術的な質問をし、助言を待った。

 すると、田代は言った。

 「自分のいいところって何だと思う?」

 心を見透かされたかのような返しに驚きつつ、楠本は「バットとボールをコンタクトすること……」と答えた。

 それを田代は否定した。

 「違う。打ちにいくとき、ボールに対してバットが入っていく角度だ。うまくなろうとして、自分で少しずつバッティングフォームをいじってしまってるんじゃないか」

 その言葉は電流のように25歳の全身を駆けめぐる。思い当たることがあった。

 「たしかにバットの出し方を去年変えたな、と。うまくなろうと思って模索することだけじゃなく、自分はこうするんだという芯の部分がぶれてもいけないなと思うようになりました。そして、いままで自分が打ちやすかった打ち方に戻してしまおう、という考えに変わった」

 この決断の意義は、打ち方の問題にとどまらない。

 自らに備わった本来の力を信じること。自らの意思でそう決めたこと。プロとしての自立、より明確に書けば自己中心主義。もう誰のせいにもできない道へと、楠本は踏み出したのだ。

 「いろいろな助言をくださる方がいるのはもちろんありがたい。だけど最後は自分のために野球をやっている。自分が後悔しないために過ごさなきゃいけない。そう思うと、腹をくくれるのはやっぱりこっちの打ち方だなって」

 原点回帰は功を奏した。ファームでの9月の月間打率は3割7分5厘。指導者からの言葉がうれしかった。

 「入団してきたときみたいな『らしさ』が出てるよ」

 10月、楠本はまた1軍に呼ばれた。代打起用が主だが「そこで結果を残してしがみつかなきゃいけない」。代打経験の豊富な佐野恵太やファーム打撃コーチの下園辰哉に、打席に臨む心構えを尋ねた。2人の答えの趣旨は同じだ。

 「一球で仕留める。とはいえ打てることのほうが少ない。ダメでもしょうがないくらいの気持ちでいないと、引きずることになってしまう」

 それを聞き、楠本の心はまたひとつ軽くなった。

 1軍昇格後の数打席を振り返り、朗らかに言う。

 「調子はいいと思います。自分のスイングをしてかえってこられるかが大事。それができていることが多いので」

 残り試合はわずかだ。未来につながる一打を刻みたい。(横浜DeNAベイスターズ公認ライター・日比野恭三)