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 岡山県津山市で開かれている盲ろう者向け通訳・介助員養成講座の2年目コース(全8回42時間)で、10月11日にあった2回目の講義は「弱視ろう者の生活を知る」がテーマだった。弱視ろう者とは、わずかに視力が残る盲ろう者のこと。県内の当事者2人を招き、記者の私を含む受講生たちは手話など自らの「会話力」を駆使して、生活の苦労や工夫、楽しみを聞き取った。(中村通子)

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 1年前の初年度講座で、初めて弱視ろうの人とじかに手指で言葉を交わした。残る視力はそれぞれ違うことを知り、分かりやすい伝え方のコツや注意するポイントを学んだはずだった。

 だがコロナ禍で休講が長引き、受講生の記憶はあやふや。今回の講義で、村上京子・岡山盲ろう者友の会事務局長に「通訳開始前にするべき準備は?」と改めて問われ、必死で思い出した。

 通訳者が視野に入っているか当事者本人に確かめる▽香水や口臭など強い臭いがないようにする▽爪を短く切る――などを口々に挙げた。

 村上さんは、コロナ禍で特に留意すべき点として「指輪を外す配慮」を強調した。事前に手洗いや手指の消毒をしても、汚れは残りやすいからだ。盲ろう者の通訳介助は触覚が頼り。「密接」は避けられない。「当事者と通訳介助者の双方を守るには、できる限りの配慮を尽くすしかない」

 準備を整えた後、いずれも弱視ろうの菅田(かんだ)小百合さん(57)=倉敷市=と小田切寛之さん(50)=同=を講師に迎えた。

 菅田さんは3歳の頃、交通事故で聞こえなくなり、小学高学年の頃からだんだん視野が狭くなった。夜や暗い所では見えなくなる。小田切さんは生まれつき聞こえず、十数年前から視野の中心がゆがみ、モザイクがかかったようになった。

 受講生たちはそれぞれ、2人に「コロナ禍での生活」についてのインタビューに挑んだ。

 菅田さんは100円均一の店で買った安全便利グッズを使って料理を楽しんでいると話した。4月に徳島の息子夫婦に孫が生まれたが、コロナの影響でまだ1度しか会えていないそうだ。「でも、嫁が動画や写真をまめに送ってくれるんですよ~」。笑顔でスマホの映像を見せてくれた。

 小田切さんは、巣ごもりの日々、家族でテレビゲームを楽しんだ。驚いて「見えるの?」と尋ねると、「大画面モニターなら大丈夫だ」と答えてくれた。

 2人とも、一番困るのはコロナ関係の情報が入りにくいことだと説明した。

 わずかでも視力が残り、テレビなどでニュースを見ることが出来る2人でも、情報入手に苦労している。全盲ろうの人だと、なおさらだろう。彼らの話に、通訳介助の重みを突きつけられたようだった。

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 この日は模擬会議の通訳実習にも挑んだ。村上京子・岡山盲ろう者友の会事務局長の司会で、菅田小百合さんと小田切寛之さんが話し合うという設定。受講生がこのやりとりを通訳した。

 3人の発言と状況を、音声と手話で交互に伝えようとすると、めちゃくちゃ慌ただしい。秋の味覚など楽しい話題なのに、内容をかみしめる余裕などない。1人の発言の通訳が終わらないうちに別の発言が始まると、混乱状態に陥った。

 実習を終えた受講生はへとへと。盲ろう者向けの通訳の中でも、発言者が多い会議が一番難しいそうだ。

 でも、会議や話し合いの場に、盲ろう者自らが参加し発言できる環境がなければ、彼らの社会的自立は実現できない。村上さんは優しくこう言った。

 「大切なのは、言葉を追いかけるだけでなく、一緒に話を理解し、状況を楽しむにはどうするか。そこを考えることですよ」

 そうか。楽しく感じていない人から伝えられる言葉は、受け取る人もきっとつまらないだろう。笑顔で一緒に楽しむ伝え合いを目指して、次回もがんばろう。