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 1970年代から岡山県が整備プロジェクトを進めた吉備中央町のニュータウン「吉備高原都市」について、町は、政府が構想する最先端都市づくりのための特区「スーパーシティ」に申請することを決めた。バブル崩壊後に開発はほぼ止まったままになっており、町は新たな街づくりを目指す。

 10月30日、スーパーシティの申請に向けた検討を進める官民のプロジェクト会議が町内であった。7月に始まり4回目。県の菊池善信副知事や町の担当者、地元事業者ら約60人が出席し、山本雅則町長は「高いハードルはあるが乗り越えていきたい」とあいさつ。事業者からは将来的な取り組みの例などが報告された。

 吉備高原都市は1975年、故・長野士郎知事が「保健、福祉、文化の中核センター」を掲げ基本構想を打ち出した。約1910ヘクタールを整備し人口3万人という計画だったが、バブル崩壊などを経て想定通りには進まず、石井正弘知事時代の98年度に凍結された。

 県によると、基盤整備費は300億円以上。保全農地を除く1312ヘクタールの計画区域のうち、整備済みは約610ヘクタールにとどまる。人口も1500人ほどで、当初計画の1割に満たない。

 県は昨年度から、更地が目立つ分譲地の拡販のための新たな事業をスタート。ハウスメーカーに分譲地への住宅建築1件につき約30万円の協力金を支払うというもので、今年9月までの間に成立した計20件のうち、10件が対象となったという。企業誘致も進め、昨年末には地元企業が新たな工場を立地することが決まった。

 町は、こうした機運をまちづくりに生かそうと政府のスーパーシティ構想に注目。計画に盛り込む事業の候補として、自動運転車による巡回バスのほか、タブレットを活用した「町立オンライン小中学校」の実現、IoT(モノのインターネット)を使った高齢者の見守りなどを検討している。複数の規制緩和を提案できる特区認定を受けたい考えだ。

 申請が認められれば、来春にも特区認定され、本格的な始動となる。最終的には住民の同意が必要となる。山本町長は取材に「夢を持って移り住んだ人のためにも最終形に近づけたい」とし、「実現しなくても、努力は今後のまちづくりに生かせる」と述べた。

「夢は見たいけどね」

 岡山市中心部から北西へ車で約50分。県道72号で緑豊かな山々を抜けると、視界が開け、標高300~400メートルの吉備高原都市が現れる。

 片側2車線の広々とした道路と手入れの行き届いた街路樹。一部では電線が地中化されている。福祉施設や工場のほか、戸建て住宅が並ぶ閑静な区画では、売れ残った更地が静けさをいっそう際立たせている。

 住民はスーパーシティへの申請をどう受け止めているのか。5年ほど前に移り住んだ男性(76)は、路線バスなどの交通の便が悪い、と嘆く。暮らしに車は欠かせず「車に乗れる間はいい街だ」。自動運転の乗り合いタクシーなど新たな構想について「ここがもう少し都会になるきっかけになれば」と期待する。

 ある女性(79)は「にぎやかになるのはうれしいけど、『デジタル化』について行けるか心配」。町の方針には賛成の立場だが、実現の可能性には首をかしげる。「夢は見たいけどね。高齢者でも暮らしやすいまちにしてほしい」(華野優気)