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 秋田県横手市の金沢(かねざわ)公園に「納豆発祥の地」の石碑がある。横手盆地一帯を戦場とした「後三年の合戦」(1083~87)の際、源義家の軍が農民に煮豆を俵に詰めて供出させたところ、数日経って香りを放ち、糸を引くようになった。食べてみるとおいしかったので食用にしたという伝説に基づく。

 碑を建てたのは、隣の美郷町にあるヤマダフーズ。「おはよう納豆」のブランドで知られる、国内4位の納豆メーカーだ。

 3階建ての本社工場は半自動化され、従業員の姿は少ない。ほかの菌が混じらないよう作業室内は太平洋の真ん中と同じくらいのきれいな空気という。

 蒸し豆の香ばしい匂いが立ちこめる2階では、多くの釜から順次、蒸し上がった大豆が蒸気とともに出てくる。粒納豆用と、挽(ひ)き臼のような装置で挽き割ったひきわり納豆用があり、ひきわり用の蒸し大豆を一口試食させてもらうと栗の風味がした。

 蒸し大豆に納豆菌を吹きつけて、1階の充塡(じゅうてん)ラインへ下ろす。このラインで自動で容器に入れ、約40度に保たれた発酵室へ。約20時間で納豆になり、さらに約1日熟成させて出荷するという流れだ。

 スーパーなどで売られる市販用と、回転ずしやコンビニの納豆巻きなどに使われる業務用を合わせた納豆の国内市場でヤマダフーズは4位だが、業務用に限れば国内トップだ。とくに同社のひきわり納豆は東日本のセブン―イレブン、全国のローソンとファミリーマートで販売中の納豆巻きにも使われている。

 「粒よりもひきわりの納豆を食べる人が、全国の他の地域よりもずっと多い秋田県で創業したので、ひきわりの製造技術を磨くことができた」と山田伸祐(しんすけ)社長(43)は話す。

 粒とひきわり、それぞれに適した大豆の品種を使い分ける。割った大豆を買うと、酸化が進んで色や風味が損なわれるので製造前に割る。割った大豆を特別な釜で短時間で蒸し上げることによって風味を保つ。そして、ひきわり専用の納豆菌を使う。

 納豆菌は枯れ草や土の中から採集し、納豆を試作。粘りやうまみ、香りなどを測って、高い評価のものを数十種ストックし、用途別に使い分けている。

 納豆の市場シェア(占有率)は、トップのタカノフーズ(おかめ納豆、茨城県)と2位のミツカン(金のつぶなど、愛知県)の2社で過半数。上位6社で80%。残り20%に約160社がひしめいているという。

 「大手2社と同じ路線を追っても、資本力や技術開発のスピードでかなわない」と山田社長。「納豆市場約1900億円のうち業務用は数十億円のニッチ(隙間)市場だが、うちには十分な規模。離乳食や介護食など用途を広げれば、まだまだ伸びしろもある」

 3代目である山田社長は国内の大学を卒業後、米国の大学に3年間留学した。帰国後、大手食品メーカーの営業職で約3年間働いた後、祖父が創業し、父が社長を務める同社に29歳で入った。7年前の社長就任以来、損益はずっと黒字。社長を引き継いだとき74億円だった売上高を6年連続の増収で昨年8月期に93億円まで伸ばした。

 秋田県の郡部で66年前に生まれた家内工業の製造所が、全国ブランドのメーカーに育った。山田社長は「地域社会に必要とされて、百年、二百年と存続していける企業にしたい」と語る。(増田洋一)

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 〈ヤマダフーズ〉 1954年、仙北郡金沢町(現・美郷町)で金澤納豆製造所として発足。その後、羽後食品工業、さらに現社名に変更。美郷町と茨城県牛久市に納豆工場が、横手市に豆腐工場がある。今年8月期の売上高は91億円。従業員は590人(うち正社員は約220人)。

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