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 国内のPCR検査数の少なさを批判してきた山梨大の島田真路学長が10月、同大医学部付属病院の荒神(こうじん)裕之教授との共著で、「コロナ禍で暴かれた日本医療の盲点」(平凡社新書)を出版した。新型コロナウイルスとの「闘い」を通し、検査拡充が遅れた背景に切り込む内容だ。「検査にもっと注力を」と話す島田学長に話を聞いた。

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 ――付属病院は早くから新型コロナ対策を準備しました。

 1月25日、中国・武漢で感染症の専門病院を急いで建設する映像を見て驚いた。2日後に大学病院で臨時会議を開き、PCR検査体制の構築や患者受け入れ準備を進めることにした。2月中旬には、重症化のおそれのあるクルーズ船患者の受け入れ要請を受け、病院全体が一つのチームになり対応した。

 ――院内感染のリスクもありました。

 3月末、救急搬送された乳児の感染が確認された時は衝撃が走った。感染を疑う症状はなかったが、胸部CT画像を見て「念のため」に検査をしたら陽性が分かった。濃厚接触者を含む約50人を自宅待機させ、検査で陰性を確認した。院内感染を防ぐためにも、入院前の無症状者を含めた検査が必要だと分かった。

 ――ただ、当時はPCR検査の積極活用に否定的な意見があった。

 政府の専門家会議も「限られた検査資源を重症化のおそれのある方に集中」と発言しており、医療崩壊への懸念を口実に検査を制限しようとする声が大きかった。だから、国際比較をもとに「日本の検査数は途上国並み」「不十分な体制は日本の恥」と発信した。

 ――なぜ、検査はすぐに増えなかったのか。

 誤りを認めない「無謬(むびゅう)主義」が官僚にあった。首相が増やすと決めても、方針変更をはっきり自治体に伝えない。欧米より感染者や死者が少ないから「成功」「ミラクル」という声もあったが、検査をしなければ診断できないので患者数は少なく見える。アジアの中で比較すれば死者も多い。幸運だっただけなのに、きちんと検証しない。

 民間検査機関の活用は徐々に進んだが、当初は民間や大学は使わなかった。医療を扱う厚生労働省と大学を扱う文部科学省の縦割りの弊害だ。付属病院では5月からドライブスルー検査を始めたが、今も各大学での取り組みは進んでいない。

 ――ほかには?

 地方国立大病院の置かれた窮状の問題がある。新臨床研修制度によって大学の医療が否定されるとともに、若い研修医が都会に流出するなど地方の人材が不足し、国立大学法人化で財政基盤も弱くなった。PCR検査に協力したくても、できない大学もある。専門医の養成から学会を排除する動きがあったが、国の中に大学や学会などアカデミズムを軽視する姿勢があることも問題だ。

 ――冬に向け、県内の感染は楽観できないのでは。

 そう思う。感染が収束していない中で「Go To」キャンペーンが進んでおり、地方医療にしわ寄せがくるのが心配だ。PCR、精度の高い抗原検査はもっと必要だ。社会に不可欠なエッセンシャルワーカーたちが定期的に検査を受けられるよう、国は検査体制の拡充にもっと注力してほしい。(聞き手・永沼仁)

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 しまだ・しんじ 1977年、東大医学部卒。山梨医科大(現山梨大医学部)皮膚科教授、山梨大医学部付属病院長を経て2015年から同大学長。02~03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行の際、同病院の感染対策委員長を務めた。12~18年に日本皮膚科学会理事長。

 今年3~5月、医療関係者向けサイトに「山梨大学における新型コロナウイルス感染症との闘い」と題した論考を計7回執筆し、大学のホームページにも掲載した。検査数や検査体制を各国と比較し、「PCR検査の不十分な体制は日本の恥」と批判。メディアでも検査拡充を訴えた。