構成・井上秀樹
市川猿之助が11月の歌舞伎座公演「吉例顔見世大歌舞伎」で「蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)」で5役の早替わりを勤めている。10月の取材会では今の楽屋事情や出演した人気テレビドラマ「半沢直樹」のことから、松本幸四郎や市川中車(香川照之)への思い、さらに未来の歌舞伎を担う新世代への期待など、たっぷりと語った。
――再開した歌舞伎座は客席が千鳥(一席空き)でした。奇異な感じはありましたか。
僕はあらかじめ聞いていたからね。そういうもんだと思って舞台に上がったから。稽古みたいですね。休憩中に鳥屋(とや)(花道の突き当たりの小部屋)に移動したりすると、お客様のざわめきが聞こえない。一瞬、「あれ、これお客さん入ってんの?」。それぐらいシーンとしてたのが異様でしたね。
――再開後、3カ月出ることになります。いまの歌舞伎座を支える1人です。
年代がそこへ来たんだなと。立場的には若手ですけど、気づけば働き盛りっていうの? 芸の上でじゃないですよ、肉体的に。
――11月の出演は働き盛りだから?
(歌舞伎公演の入場人数に対する)政府の規制が解けたってことが、一番の大きなことなんじゃないですか。舞台の上だけでも徐々に規制を緩めていかないと。まだ人数が出せませんから、一人で5役やるしかないんですけど。舞踊劇ならそうしゃべることもないし、早替わりの先陣を切るんだったら、うちかなと思ってね。
――踊っていて個人的に楽しい役は。
今回初めてやるのは太鼓持。伯父(現・市川猿翁)のが頭にあるからすごく楽しみですけどね。
――何回か演じている演目ですが、早替わりの苦労は。
今回、稽古が出来ないんですよ。どっかの劇団で六十何人クラスターが発生したように、稽古場が一番危ないんで、なるべく密集しないように、稽古の回数がない。早替わりはチームワークだから、僕らはお弟子さんとの間に、会話にならないぐらいの信頼関係があるから出来る、3回の稽古でぱっと。早替わりを得意にしなきゃいけない家だから、そこは特化してたから、大丈夫かな。
――早替わりは歌舞伎ならではの演出です。やりがいのあるものですか。
早けりゃいいってもんじゃない…
残り:2648文字/全文:3566文字
【5/11まで】デジタルコース(月額3,800円)が今なら2カ月間無料!詳しくはこちら
速報・新着ニュース
あわせて読みたい