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 世界でも他にない大型マリモの群生地、阿寒湖(釧路市)。その生育を妨げている水草を周りの森のエゾシカの餌にする実験が進められ、10月には地元の小学生による自然観察会があった。湖や森を守るってどういうこと? 子どもたちは手を動かしながら考えた。

 10月6日、阿寒湖北部の森は秋の装いとなり、黄色っぽく染まっていた。市立阿寒湖小学校の3、4年生計19人は、ふだんは人の立ち入りが禁止されている森に特別に入った。

 「これを見て」。森林を管理する前田一歩園財団の酒井賢一さん(50)が直径約50センチのオヒョウの木を指さした。コケむした幹の皮は縦にむかれツルツルになっていた。「エゾシカに食べられました。これまでに4万本やられました」

 エゾシカの餌が不足する冬場、阿寒湖周辺の森林では樹皮をはがされる食害が目立つ。木は水や栄養が行き渡らず枯死につながる。酒井さんは①ビートの搾りかすを代わりに与える②捕獲する③木にプラスチック製のネットを巻く――といった対策を説明した。

 子どもたちは班ごとに木を選び、幹回りを測り、ネットを切って巻く作業を体験した。上端に向けて腕を伸ばし、「エゾシカがジャンプしても大丈夫」などと言いながら作業を進めた。

 チュウルイ川では産卵のため阿寒湖から上ってきた、赤みがかったヒメマスが群れていた。腐った木や石、枯れ葉を集めると、カワゲラやトビケラの仲間の幼虫が出てきた。「川のそばに森があるとなぜいいのか」。子どもたちは酒井さんの質問の答えを探った。

 阿寒湖のマリモは明治期に学会で発表され、全国から注目された。しかし1920年前後に森林伐採に伴い湖に土砂が流入、生育地が狭められた。観光客の増加に伴い50年代以降はホテルや住宅からの排水で打撃を受けた。

 その後下水道の整備などで水質は改善されたが、湖の透明度が増すとともに水草が大量発生。マリモは波によって水底で揺られて回転しながら育つ。水草が増えると水の流れが遮られ、成長が妨げられる悪循環が起きた。市教委は18年から本格的に水草の除去に取り組むが、毎年1トン以上の水草の捨て場に困っていた。

 市教委マリモ研究室の尾山洋一学芸員(43)は日本ではかつて水草を家畜の飼料や畑の肥料にしていたことを踏まえ、エゾシカの餌に使うことを思いついた。官民でつくる「阿寒湖のマリモ保全推進委員会」が子どもたちとともに実験することになった。

 8月27日、チュウルイ湾。4年生9人は交代でボートに乗せてもらい、長さ5メートルの棒を水深約3メートルの湖に突き立て、水草を引っ張り上げた。3年生10人は湖岸付近に打ち寄せられたマリモを観察し、先輩が採った約100キロ分の水草をシートに並べて乾かした。

 10月6日の自然観察会では水草の干し場を見に行き、袋に詰めた。水が抜け、重さは10キロほどに減っていた。大人が採った分も合わせて来年2月に森林に置く。監視用カメラでエゾシカの反応を確かめる。

 直径15センチ以上のマリモが群生するのは世界でも阿寒湖だけで、国の特別天然記念物に指定されている。環境省のレッドリストでは絶滅危惧Ⅰ類に分類されている。尾山さんは「新しい自然保護のあり方を提案したい」と言う。

 自然観察を楽しんだ3年の八木沢陽梨さん(9)は「マリモはプニュプニュして可愛かった。エゾシカに水草をたくさん食べてもらい、マリモがもっと増えればいいな」と話していた。(高田誠)

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