コロナで帰国できない留学生、介護施設にマスクを寄付

遠藤美波
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 新型コロナウイルスの影響で母国に帰国できず、在留資格が切れてアルバイトもできなくなった留学生が9月、神戸市内の支援団体に保護された。家賃も食費も援助してもらう中で、「自分も誰かの役に立ちたい」と、マスク作りに挑戦し、介護施設に寄付した。

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 留学生は、ブータン出身のサンゲイ・ツェワンさん(24)。ブータンはインドと中国に囲まれた南アジアの国で、GNH(国民総幸福量)という独自の指標を掲げる「幸せの国」としても知られる。

 ツェワンさんは2018年4月に来日。ブータンでは友人とバンドを組んで音楽をしていたが人気が出ず、プロになる夢を断念。ブータンより給料が高い日本で働こうと、神戸の日本語学校に留学した。

 2年間勉強し、日本語は日常会話や新聞の見出しが理解できるレベルになった。今春から専門学校で経営を学ぶ予定だった。

 だが、アルバイトと勉強の両立が難しく、日本語学校の学費を滞納して卒業できず、専門学校への入学も取り消しに。帰国を考えていた矢先、新型コロナの感染が拡大した。

 ブータンまでの飛行機は全て欠航。生活のため新たに食品工場でアルバイトを始めたが、7月には留学ビザが失効し、週28時間まで働ける資格を失った。とりあえず「短期滞在」のビザを取ったものの、この資格では働くことが認められない。

 家賃が払えずにアパートを出て、友人の家に泊めてもらったり野宿をしたりしてしのいだ。8月、ストレスから衝動的に酒を大量に飲み、目が覚めたら病院にいた。頭を縫う大けがをしていた。ブータンで医療費は無料なのでそのまま病院を出ようとしたら、約6万円の治療費を請求された。払えず、東京の日本ブータン友好協会に相談した。

 支援を引き受けたのは、神戸市兵庫区の国際交流シェアハウス「やどかり」。運営する中野みゆきさん(36)はこれまでも経済的に苦しい留学生を支援してきた。ツェワンさんはシェアハウスに泊まり、食事も無料でもらえるようになった。

 ただ、支援してもらうばかりで目標のない生活に、気持ちはどんどん落ち込んでいった。そんなとき、中野さんから「近くの介護施設の人のためにマスクを作ってみたら」と提案された。針を持つのは初めて。慣れない作業に戸惑いながらも、高齢者の喜ぶ顔を想像しながら1枚1枚丁寧に作った。次第に、気持ちも前向きになっていった。

 1カ月かけて作った100枚のマスクは10月下旬、近くの特別養護老人ホーム「パーマリィ・イン中道」に届けた。木挽(こびき)智之施設長は「外国から来た人が一生懸命作ってくれたなんて、利用者が知ったら喜ぶと思う」とねぎらった。

 ブータンへの航空便はようやく再開したが、入管に事情が認められ就労できる在留資格に切りかえられることになった。航空券代などを稼ぐためもうしばらく日本にいることにしたという。「私を信じて助けてくれた日本の人たちに恩返しがしたい」とツェワンさん。日本の介護施設で働くことを目標に、介護の勉強をしているという。(遠藤美波)

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