[PR]

 学外向けに大学を紹介する東京大学の広報誌「淡青(たんせい)」(年2回発行)には、異例の人気を博した特集があった。「猫と東大。」。この特集に大幅加筆したものが、間もなく書籍化される。東大といえば、ハチ公。犬との結びつきが強いイメージだが、「猫愛」にあふれた教授らの研究成果が盛りだくさんだ。

 この特集が掲載されたのは2018年9月号。当時SNSなどで話題になり、4万8千部発行するうち卒業生らへの送付分を除く約1万部がすべてはけた。

 当時の広報室長が特集の冒頭で、「東大の広報誌にあるまじきテーマのゆるさに恐々としていた」と書いている。だが、内容は総合大学らしく文系から理系まで幅広く、本格的だ。

 小森陽一教授(現・名誉教授)の寄稿「『吾輩は猫である』に見る『皮膚』の『彩色』の政治学」に始まり、浮世絵などの所蔵史料でたどる猫の歴史、社会学者が読み解く猫ブームの理由……。理系では、東大動物病院が取り組むペットの問題行動の分析や、アルツハイマー病の解明に猫が重要な存在だとする研究などを紹介している。

 特集を企画した広報課の高井次郎さん(53)はリクルート出身で、フリーライターを経て7年前から淡青の編集に携わる。当初、「ハチ公と上野英三郎博士像」が農学部そばにあるだけに、縁の深い犬を考えたが、ペット数で犬を上回るなど世は猫ブーム。猫と東大の関係を調べると、想像以上に話題が豊富だった。

 中でも「猫を愛し、猫に学ぶ。」と題した教授4人の座談会は、「『淡青』史上最も笑顔にあふれる座談会」に。ペットロスに陥った体験の告白もあれば、猫にパソコンを落とされて学会用の資料が消えてしまい、1週間、猫と険悪な関係になったとの逸話も。「そんなワイルドさやアナーキーさを痛快に思う自分もいました」

 高井さんは「東大ってお堅くてとっつきにくいイメージかもしれないが、そうじゃない先生はたくさんいる。イメージアップという意味でも、猫はいいテーマになりました」と笑う。

 淡青始まって以来の書籍化の話は、学術書の出版社・ミネルヴァ書房から舞い込んだ。担当編集者の水野安奈さん(44)は「先生たちの研究には緻密(ちみつ)な論理や冷静さといった、学問としての厳しさが求められる。でもそういった日々の研究を支えているのは、熱い思いだったり、情熱だったりする。その一端を猫という切り口から伝えていて、共感を呼んだのだろう。書籍化を通じて、多くの人に共感を広げたい」と話す。

 書籍化に際し、猫型ロボットの研究などを追加。05年の教養学部報に掲載されて感動を呼んだ、駒場キャンパスで愛された猫への追悼文「さよなら、まみちゃん」の全文再録など、大幅に内容を充実させた。11月10日発売予定で、A5判168ページ、税別2200円。(井上恵一朗)