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 自転車の交通ルールを広めようと秋田県警の職員が作った啓発動画が、異例の視聴回数を記録している。公開は3月だが、これを視聴した人が10月に「こんな動画作れるとか最早(もはや)才能」とツイッターに投稿したことで注目され、視聴回数が急増、13万回を突破した。その人気のわけは?

 動画を作ったのは県警交通企画課で庶務や会計などを担う警察行政職員として働く佐藤ひろみさん(52)。「こんなことになるとは……」と反響への驚きを隠さない。

 長男(26)がユーチューブに自作の動画を投稿しているのを見て、「こういうのを活用したらいいんじゃないか」と思い立った。交通安全の啓発動画を作りたいと昨年7月、企画書を上司に出した。道路交通法に詳しい警察官にシナリオを書いてもらい、業務の合間を縫って独学で動画を編集。「歩行者ファースト」「反射材の着用」「自転車の交通ルール」の3本をユーチューブで公開した。

声は県警の交通部長

 今回「バズった」のは、3月に公開した3本目「自転車の交通ルール」(https://www.youtube.com/watch?v=q9kw9AmEF-A別ウインドウで開きます)。県警マスコット「まもるくん」が、友だちの家に遊びに行くという設定だ。雨が降る中、「あんで行ぐのめんどくせな(歩いて行くのめんどくさいな)」と傘を差しながら片手で自転車を運転。一方、老人クラブのグラウンドゴルフ大会に行く予定だったおじいさんも、「中止連絡来ないからまずグラウンドさいってみっか」と歩いて出発する。

 大雨の中、「ちゃっちゃらちゃちゃちゃ」と機嫌よく歌いながら自転車をこいでいたまもるくんは、傘を差して歩くおじいさんに気づかず衝突。ドーンという衝撃音と共に火柱が上がり、おじいさんは救急車で運ばれる。泣き顔のまもるくんは到着した警察官に指導され、自転車の交通ルールを学んでいく。

 視聴回数はこれまで数百程度だったが、動画を見た人が10月、「最早才能だぞ」とのコメントとともに動画の一部をツイッターに投稿。この投稿が6万回「いいね」、2万回リツイート(再投稿)され、動画の視聴回数も急上昇した。

 ネットユーザーが食いついたポイントが、動画の「手作り感」だ。無料で使えるフリー素材のイラストを駆使した簡素なアニメーション、まもるくんやおじいさんが話す秋田弁も好感を持たれたようだ。ご機嫌に歌を口ずさみながら自転車に乗るまもるくんが、次の瞬間には爆発する勢いでおじいさんに衝突してしまう急展開も、視聴者の笑いを誘った。

 まもるくんの声は制作当時の交通部長・坂本幸一さんが務めた。「味がある部長の声を使いたい」と佐藤さんが最初に出演をお願いした際は、「おれ滑舌悪いがらなあ」と遠慮がちだったという。だが何度もお願いすると承諾してくれた。「部長室で録音していると、事務室にも声が漏れ聞こえてきて、課内のみんながクスッとする感じでした」と佐藤さん。

 動画の後半では警察官が登場し、「車道は左側を通行」「歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行」などと自転車のルールを指導。エンドロールでは、まもるくんがぶつかったおじいさんには幸いにもけががなかったことが明かされる。

 一方で、実際にあった例として、自転車で歩行者を転倒させて約9500万円の賠償を命じられたケースや、相手を死亡させて禁錮2年の実刑判決を言い渡されたケースも紹介。「おもしろいだけじゃなくて、交通ルールも広まってほしい」という佐藤さんの願いは届いているようで、動画には「なんだかんだ全部見て勉強にもなった」とのコメントも寄せられている。

 3月に定年退職した坂本さんに動画の反響を伝えたところ、SNSの波及力のすごさに驚きつつも喜んでいたという。動画作成のきっかけとなった長男は「爪痕残せてよかったね」と、ねぎらってくれたそうだ。(高橋杏璃)