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 国内では70を超える地方自治体により、80以上の公立動物園が運営されています。私立園の数もあわせ「動物園大国」とも言われます。この動物園の数は適当なのかどうか。そもそも動物園は必要なのか否か。アンケートでの意見は大きくわかれました。転換期を迎えている動物園は今後どうあるべきなのでしょう。さらに考えます。

市民の関心、層に厚みを 作家・川端裕人さん

 僕も「子どもの頃にはよく行ったけど、大人になると行かないよ」という、ごく普通の動物園ユーザーでした。でも生き物を見るとワクワクする気持ちは常にあった。子どものころの動物園体験が大きいんだろうと思っていました。

 1990年代半ばに、海外の動物園が希少動物を共同繁殖して「種の保存」に取り組んでいることを知り、興味を持ちました。97年から1年間、米国の動物園を取材してみると、議論はもっと進んでいた。もはや「種の保存」だけでは動物園の存在意義を正当化できず、市民の支持を得られない時代になってきていました。動物の福祉を考えて、動物が快適に暮らせるようにあの手この手で配慮する環境エンリッチメント運動と、「そこで何を訴えたいか」という展示効果を考えて施設を改善する運動の二つが勃興していました。その状況を本にしたのが99年です。

 展示効果という発想は日本ではいまだに薄いですが、飼育を工夫して動物の自然な行動を引き出す環境エンリッチメントはこの20年でだいぶ浸透してきました。当初は、熱心な個人が周囲に煙たがられながらやっていたものが、最近は組織ぐるみで取り組むものに変わってきています。

 一方で、動物の福祉を追求すると施設の問題も不可分になってくる。施設をより良いものに作り替えたいとなると、経営側や議会側の問題になります。動物園の個人が頑張ってできることじゃない。ではどうするか。僕は、投票行動で議会を動かしていく「市民的な厚み」が必要だと思います。動物園に関心を持っている市民の層を分厚くしていくことが、動物園の活路でしょう。

 もちろん、市民の要望だけを見ていると、道を誤ることもある。動物園側が専門的な視点で、動物を健やかに飼い続けるためにはこれが必要です、と発信することも大切です。動物園のメッセージと市民のニーズが良い循環を作りだせるとよいですね。

 動物園がなかったら、僕の生き物好きは発展しなかったかも知れない。犬や猫としか接点のない人が増えている今、コンパニオンアニマルではない野生動物がちゃんとリアルにそこにいて、その間に何らかの共感を培おうと動物園が目指す。それは大事なことだと感じます。(聞き手・鈴木彩子)

    ◇

 かわばた・ひろと 1964年生まれ。99年に「動物園にできること」を出版。「環境エンリッチメント」という言葉を日本に伝えたひとり。著書に「動物園から未来を変える ニューヨーク・ブロンクス動物園の展示デザイン」(共著、亜紀書房)など。

CGを映写、教育に貢献 ライトアニマル代表・河合晴義さん

 海の生き物が好きで、子どもの頃から水族館に通っていました。大学で水産学を学び、生き物の大切さを伝える仕事をしたいと考えるようになりました。海中を探索するゲームの開発に参加した際、CG作成を担当していた西海(さいかい)圭祐氏(現ライトアニマル副代表)と出会い、2010年から、実物大で動く動物をCGで映す「ライトアニマル」という取り組みを始めました。

 いまの動物園は、大きな施設に多種多様な動物を集め、維持するためにエネルギー資源を使って環境に負荷をかけ、さらに数万人単位で集客し続けなければいけない。また、考えられていた以上に動物がこの世界を認知できていることもわかってきており、動物福祉は世界的に大きなテーマになっている。いまのままのモデルでは、動物園の持続可能性は低いでしょう。100年後にも続いているとは思えません。

 一方で、動物を守っていくことは、自然環境の保護と同義で、人類の将来に直結する問題。だから生き物教育は、人間にとって大切な教育なのです。

 でもそれは、生きている動物でなければ教えられないのか。上野動物園ができた明治時代はもとより、戦後の復興期や高度成長期でも、実物を見せるしか方法はなかったかもしれません。しかし現在は、様々な選択肢があります。ライトアニマルであれば、生きている動物の展示で生じる様々な問題を考えずに、生き物教育ができます。投影できる壁面さえあれば、どこでも可能です。

 これまでに、国際自然保護連合(IUCN)の会議や海外の各地で実際に見てもらうなど、私たちの活動への理解は広まっています。しかもCG技術はまだまだ発展し、確実により本物に近づいていきます。

 本物でなければ伝わらないものがあるのは確かです。でも本物にこだわるあまり、動物福祉がないがしろになったり、環境に大きな負荷をかけたりするのでは、動物園本来の存在意義に反するのではないでしょうか。動物園がより良い教育施設になるために、ライトアニマルを選択肢の一つとして考えてほしい。それが私たちの願いです。(聞き手・太田匡彦)

一定距離「ようやく好意的に」 横浜

 10月の日曜日。横浜市立よこはま動物園ズーラシアは、ベビーカーを押した親子連れでにぎわっていました。草木が生い茂るスマトラトラの放飼場では、奥の木につるされたボールに飛びかかって遊ぶトラの姿が、茂みの隙間から見え隠れ。来園者からは「見えない、見えない」「ぜ~んぜん見えない」と声が上がる傍ら、「ずいぶんといい環境に暮らしてるねぇ」という声も。

 1999年開園の同園では、約45ヘクタールの敷地に約100種750点の動物たちが暮らしています。特徴は、野生での生息環境を模した「生息環境展示」。アフリカの熱帯雨林や草原、アマゾンの密林などを再現した広く緑豊かな放飼場で、動物たちはのびのびと過ごしているように見えます。

 もう一つの特徴は、絶滅の危機にある希少動物の繁殖や種の保存のための研究をする非公開施設「横浜市繁殖センター」を併設していること。センターで繁殖したインドネシア固有の鳥・カンムリシロムクを計約160羽現地に送り、野生復帰を支援した国際貢献の実績もあります。行政が住民サービスとして運営する動物園の中に、こうした非公開の専門施設を持つのは、日本ではここだけです。

 なぜ、これほどの動物園が横浜市にできたのでしょう?

 「経済状況が良かったことと、世界とつながってきた横浜市の都市格が影響しているのでは」と村田浩一園長は言います。

 同園の基本構想がまとまったのは、バブル前の82年。「最高のものを作ろう」という気概のもと、海外の先進園の視察を重ねて構想が練られたそうです。「希少動物の保全は世界貢献につながり、市として積極的に取り組む必要がある」との認識は、後の市長にも浸透しています。

 ただ、開園当初、来園者からは「見えない」「動物が遠い」と苦情が相次ぎました。飼育員らが試行錯誤を重ね、動物が隠れていても楽しめるよう、生態や生息環境の特徴を伝えるガイドを重ねてきました。

 今でいう「動物福祉に配慮した展示」を先取りしていた同園ですが、「好意的に見てもらえるようになったのは、ここ最近」とのこと。園で昨秋実施した利用者調査では、動物の展示を「とても満足」「やや満足」と答えた人は9割強を占めました。

残すためにもエンタメ追求 盛岡

 「動物園の役割は、野生動物の保護や自然環境の保全の大切さについて教育することにある。しかし来てもらわなければ、その機会は提供できない。施設としては、エンターテインメントを追求する」

 11月末で休園し、2022年春にリニューアルオープンする盛岡市動物公園の辻本恒徳園長はそう話します。1989年に開園し、年20万人の入園者を目標にしてきましたが、2001年度を最後に達成できていません。運営費はずっと赤字で、近年では市財政の負担率は8割以上に及び、19年度は約2億5千万円を拠出しました。人口減少が進めば、40年度以降、負担額は3億2千万円まで拡大するという試算も出ています。

 こうしたなかで市は19年度に再生事業計画を策定しました。動物福祉に配慮したうえで、動物の配置や獣舎のデザインに物語性をもたせ、「知的欲求を満たし、楽しさを感じられる、何度も来たくなる施設にする」(辻本園長)計画です。将来的には園内に子育て支援施設や高齢者福祉施設などを誘致してより人が集まる場とし、賃料収入を増やし、動物園周辺の地価をあげて民間投資を呼び込むことまで視野に入れています。

 一方で、多くの公立動物園が最優先に掲げる「種の保存」については、「前面に出すほどの体力はうちにはない。市民からも受け入れにくい。動物を展示し続けていくための手段だと考えている」と辻本園長。計画策定時には、一部の市民や市内部から「なぜ盛岡市民の税金で海外の動物を守らないといけないのか。そこに予算をつけるくらいならほかに」などという意見もあったそうです。

 計画によると、リニューアル後は年間入園者20万人を達成し、市の財政負担は1億円程度に圧縮される見込みです。辻本園長は言います。「市民の大切な財産である動物園を将来に残していくには。その答えがこの計画です」

条例化で役割明確にしたい 札幌

 動物園のあるべき姿とは? 円山動物園を運営する札幌市では、それを「生物多様性の保全に貢献すること」と定義づけ、全国初の制定を目指す「動物園条例」に明記しようとしています。

 同市は今夏、市民5千人を対象に郵送によるアンケートを実施(回収数2933通)。「円山動物園が必要」と答えた人が92.7%に上った一方、最も多かった理由は「子どもを連れていく場所として必要だから」(48.2%)でした。

 同動物園の佐々木和規経営管理課長は「市民が動物園に来る目的と、動物園が果たすべき役割とにギャップがある。でも動物福祉を根底に据え、生物多様性に貢献していく存在でいなければ、動物園の存続は難しくなっていく」と話します。ワシントン条約が発効した1975年ごろから野生動物保護が世界的な課題となり、動物園は「種の保存」に寄与できなければ存在意義を問われるようになっています。

 条例制定を目指すにあたり、過去の資料を見ると、20~30年前の文書で既に種の保存や環境教育の重要性がうたわれていたそうです。にもかかわらず、これまで動物園は変われなかった、ということです。「動物園が進むべき方向性が将来にわたってぶれないように、確実にそこに向かって進めるように、条例を定めるのです」(佐々木課長)。条例案は来年6月にも市議会に提案されます。

「人間以外の種、考える場」「檻に閉じ込めるの可哀想」

 デジタルアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 

●地球を壊す人間にとって必要

 犬猫以外の動物を一度も見たことがないままに、人間以外の種の生息環境や絶滅などに想(おも)いを致すのは無理だろうと思われ、人間が圧倒的に地球を壊す立場である以上、動物園は一定の必要性があると思います。一方で、その飼育環境などはかなりの改善の必要性があると思います。(東京都・30代女性)

●そっくりなロボットでいい

 子どもの頃に遠足などで訪れた時、檻(おり)に閉じ込められた動物が可哀想だと感じたのを覚えています。檻に閉じ込められている姿を見るだけなら本物そっくりに作ったロボットでもいいのではないでしょうか。犬も散歩に行かないとストレスが溜(た)まるように、動物園の動物たちも一生檻の中の生活はどれほどの苦しみかと思います。現在のような動物園は無くすべき文化だと強く思います。(兵庫県・30代女性)

●動物園好き、気付けば獣医師に

 身近では見られない動物が見られる動物園が大好きで気付けば動物園獣医師になりました。動物が可哀想だから動物園は要らない、などと思われる方もたくさんいらっしゃると思いますし、実際に完璧とは言えない飼育環境の動物もたくさんいます。ですが、飼育動物の福祉を最優先し快適に動物たちが暮らせるような設備などを整える動きが全国的に広がってきています。その動きを更に活発化させていくことが必要不可欠だと思っています。その先には動物たちの快適さだけでなく、かつての私以上に、自然な姿の動物たちに感動を覚えたり、野生下の仲間たちに思いをはせて行動に移したりする人が増えてくるのではないかと期待しています。(北海道・20代女性)

●経営のプロに依頼し利益出して

 公立だからといって税金などからお金を持ってこられると思わずに、外部のコンサルなどの経営のプロに依頼などして展示方法やイベントなどの見直しをして、利益を出すことを目標にすることはできないのでしょうか? その結果として、お客さんの数が増えて動物園の存在意義を大きくすることができれば理想的だと思います。(栃木県・20代男性)

●地域をまたいだ運営も

 動物園は子どもの頃の家族、学校の遠足、友人、そして今の家族、と一緒に行った自分の周りの人々との思い出とつながる場所。また、それぞれの動物の種を観察するのと同時に何回も行くと個の「子」に会うのも楽しみです。野生動物への興味や関心を持ってもらう場所とは思いますが、財政難で動物にとって不幸な環境になってしまうくらいなら徐々に種類を減らすのも地域をまたいだ運営などもやむを得ないのかなと思います。(神奈川県・40代女性)

●自治体がどう位置づけるか

 「動物園が」だけでなく、「自治体が」、環境教育や動物福祉をどのように考え、動物園をどのように位置づけるかという意識が大事なのではないでしょうか。動物園の職員の努力とは裏腹に、利用者が単に見慣れない動物のいる空間としか認識しておらず、教育的な側面が軽視されている点も残念であるので、メディアや教育の現場で動物園の役割について伝えることが必要だと思います。(神奈川県・20代男性)

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 夏の暑い日、祖父に手を引かれて行った、生まれ故郷の動物園。どんな動物を見たのかすっかり忘れてしまいましたが、もう亡くなった祖父とのいい思い出として、記憶に残っています。

 9月下旬からプレミアムA「動物たちはどこへ 変わりゆく動物園」として展開した一連の記事の取材で、その故郷の動物園も訪ねました。アジアゾウの展示施設が、動物福祉に配慮したピカピカの施設にリニューアルされていました。でも強く印象に残ったのは、この数年で新たに導入されたジャコウネコ科のビントロング2頭が、爬虫(はちゅう)類を集めた古くて狭い展示施設で飼育されていたことです。

 国際自然保護連合のレッドリストでは、両者とも絶滅の恐れがある種に分類されています。園全体のリニューアルを進めるなかで一時的な措置だと言いますが、人間の都合で、飼育環境に大きな違いが生まれている現実を目の当たりにしました。

 戦後の復興期から高度成長期にたくさんの公立動物園が誕生した日本は、「動物園大国」と言われます。そして、1980年に日本がワシントン条約の締結国になって以降、転換期を迎えた動物園は、「種の保存」や「教育」の役割を前面に掲げるようになっています。そうであれば本来、どの国よりも野生動物保護の取り組みが進み、どの国よりも命の大切さや環境保護の重要性が国民に浸透していていいはずです。

 ところが現実は、そうなっていません。市民が動物園に行く目的と、動物園が定義する役割との間にギャップがあることも、アンケート結果で明らかです。これは、動物園がその役割を十分に果たせていない、あらわれでしょう。

 アンケートにはまた、「動物園不要論」が少なからず寄せられました。一方で、動物福祉に配慮した施設の導入や入園料値上げを求める声も高まっています。いまのままでは動物園は、いつか市民からの支持を失うかもしれない。動物園には、自ら掲げた役割により真摯(しんし)に向き合うとともに、見合う成果を上げられているかどうかの検証を行っていってほしい。そうすることが動物園の、ひいては野生動物と自然環境の未来につながるのではないでしょうか。(太田匡彦)

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北上田剛も担当しました。デジタルアンケート「無人駅のバリアフリー、どう思う?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施中です。