互いに影響、切り開く人生 障害があった娘と、その母

松尾由紀
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 さまざまな分野で活躍する大阪の人を取り上げてきた「なにわびと」。今回は、大阪市天王寺区のダンサー、森田かずよさん(43)と、シニア世代の学びの場を主宰する登代子さん(72)を紹介します。生まれながらに障害があった娘と、その母。お互いに影響を受けながらともに人生を切り開いてきました。(松尾由紀)

シニアの学びの場つくる 森田登代子さん(72)

 初めて産んだ子は、脊椎(せきつい)が変形する二分脊椎症や側彎(そくわん)症を患い、肋骨(ろっこつ)や手指が少なかった。

 「すぐ死にます」。医者は言い、母乳が出るのを止める注射を打たれた。この世から消えるこの子が生まれた日を忘れないように。誕生日の14日の一と四から加津世(かずよ)と名付けた。

 あれから43年。ダンサー、俳優として活躍する我が子を「生きる勢いがある」と評する。

 一人娘がいつ体調を崩すか、命を失うか。いつもどこかで心配していた。一方で、なるようにしかならない、という覚悟も確かにあった。

 1日に2回、残尿の処理をする必要があった娘を連れて、自分が見たい舞台、行きたい旅行へ出かけた。

 「森田かずよは森田かずよであって、森田かずよ以外の何者でもない」。娘にはいつもそう伝えてきた。高校生になった時、本人に尋ねた。

 「重度の障害があるけど、生まれてきてよかった?」

 「よかった」。その答えが心からうれしかった。

 40代、大学院時代の恩師の講座を聴講したことをきっかけに、博士課程へ。近世の庶民生活史を研究し、著書を出した。

 50代、夫(71)が営む大阪市天王寺区の貸しビルで、ダンススタジオ「ピースポット ワンフォー」を始めた。かずよさんの「生きる勢い」に影響され、自らも57歳で初めてバレエを習い始めた。「ダンスは不良のすること、と思っていた世代。なのに音楽に合わせて体を動かすのが楽しくて」

 同じ場所に、シニア世代の学びの場「なにわ創生塾」もつくった。研究者として参加した国際日本文化研究センター京都市)で、机を囲んで人と意見を交わす楽しさを知ったからだ。プルーストを、シェークスピアを塾生とみんなで読み進めた。

 いま、70代。続けてきたバレエで、とうとうトーシューズを履けるようになった。

 「年齢を重ねてからの学びには、テストも他人と比べる必要もない。忘れたらまた覚えたらいい。好きなことを、細く長く、学び続けましょうよ」

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義足で舞台に立つ 森田かずよさん(43)

 右足には義足をつける。身長は123センチ。肺活量は800ccを切り、標準の数分の1だ。

 多くの人と異なる体で、ダンサーとして、俳優として、舞台に立ってきた。「ネガティブになろうと思ったらなんぼでもなれるこの体だから表現できること、伝えられることがある。踊ることで、自分の体への自信が生まれるんです」

 大阪市天王寺区で生まれ育った。トイレなどで不自由はあっても毎日は楽しかった。一般入試で私立の中高一貫校に入ると、地下鉄に1人で乗り、階段をはうように歩いて通学した。

 「舞台に立ちたい」と思い始めたのは高校生の時だ。宝塚歌劇やミュージカルが好きで、舞台芸術が学べる大学への進学を考えた。大学に電話すると、「学科の趣旨がわかっていますか? 障害があるのに」。初めて障害を理由に正面から断られた。何も言い返せなかった。

 「障害があったら表現活動をしてはいけないの?」。闘争心に火が付いた。帝塚山大に進んで演劇を始め、体を鍛えようとジャズダンスやバレエも習った。創作ダンスにも取り組むようになった。「できないことは当たり前。でも、それでよし!という感じです。型を知り、できることをアレンジする。体を解釈していくのが楽しい」

 代表作「アルクアシタ」では義足をつけて踊り、外してまた踊る。当初、障害を誇示していると思われないかと悩んだが、「どちらも自分。どちらも見て」と心を決めた。舞台は、専門家からも評価された。

 行政のイベントなどに招かれて踊り、障害のある人らを中心にダンスの指導もする。「私に寄り添いすぎず、離れすぎない人」と信頼を寄せる母の登代子さんと一緒に天王寺区のダンススタジオを経営し、昨春からは神戸大大学院の博士前期課程で「障害がある人の舞踊創作活動」について研究している。

 「健常者だって、俳優やダンサーになるのは大変。障害者ならなおさらだよね、で終わらない社会を目指したい」。ヘルプが必要な人も、等しくスタートラインに立てることを願う。

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 もりた・とよこ 1948年、大阪市西淀川区生まれ。著書に「遊楽としての近世天皇即位式」(ミネルヴァ書房)など。「なにわ創生塾」のウェブサイトはhttp://www.p-spot14.com/naniwasousei別ウインドウで開きます

 もりた・かずよ 1977年生まれ。国内外のダンサーが集い、来年1月に堺市南区の国際障害者交流センター「ビッグ・アイ」である公演「ダンスドラマ『ブレイクスルー ジャーニー』」に出演する。