台風からの再起襲ったコロナ 飲食店主「腹くくった」
飲食や観光業界への影響が続く新型コロナウイルス。昨年10月の台風19号の被災地域では、再起した時期とコロナの流行が重なった。先行きが見通せない中、歯を食いしばって看板を守り続ける人たちがいる。
ラーメン店 水戸・国道123号沿い 周囲の支えを忘れず
水戸市藤井町の国道123号沿いで、近隣住民やドライバーに愛されるラーメン店「ぶんぷく二代目小島屋」。被災から2カ月半の休業を経て、昨年末に営業を再開した。
近くを流れる西田川と藤井川から押し寄せた水の高さは約2メートル。全壊した店内には、使い込んできた調理器具や道具が散乱していた。12年にわたって家族と共に店を切り盛りする小島正さん(69)は、自らの年齢を考えた。家族からは、同じ場所で営業を続けることへの反対の声。だが「別の仕事に就いても、場所を変えても、がんばれる自信がない」とも感じた。
背中を押してくれたのは友人や近所の住民、常連客だった。片付けをしていると、お茶や弁当を差し入れてくれた。使わない冷凍庫を譲ってくれたり、内装のニス塗りなど工事を手伝ってくれたり。「店の再開に」と見舞金を持ってきてくれる人もいた。「ただただ、ありがたかった」
営業を再開し、軌道に乗りかけた3月。「『さあこれから』というところ」でコロナ感染が広がり、客足はぴたりと止まった。売り上げが全く無い日が続き、大型連休は店を閉めた。
今も売り上げは被災前の半分程度。夜の時間帯に多かった家族連れ客も、戻ってきていない。コロナの影響だけでなく、被災後に地域から出ていった人が多いことも実感している。近くでは、台風とコロナの二重苦がのしかかり、閉店する店も出てきた。
修理のために貯金も取り崩し、経営は決して楽ではない。「別な場所に移っていればよかったのかも」。ふと、そんな思いもよぎるが、そのたびに思い出すのは被災後に支えてくれた人たちのことだ。「今度水が来たらやめる。腹をくくって、その時まで頑張ります」
創業50年 割烹 大子・久慈川沿い 観光にかけるしか
大子町中心部の久慈川沿いにある割烹(かっぽう)「千石」は、今年1月下旬に営業を再開した。父親の代に創業して50年以上になるが、店を経営する片野陽司郎さん(61)は「これほど大きな災害は初めて」と振り返る。
水害で冷蔵庫や料理を運ぶためのエレベーターは水につかり、修復に半年ほどかかった。新たなエアコンの設置にも3カ月以上が必要だった。それでも、近所の人の手伝いもあり、設備が完全ではない状態で店を開けることを決心した。
その頃、国内でコロナが拡大し始めた。4月に予約が入っていた歓送迎会は早々にキャンセルされ、大型連休も予約は「ゼロ」。夏場に一度客足が戻ったが、再び全国で感染が広がり、キャンセルが相次いだ。
店の売りは奥久慈しゃもなど、地元食材を使った料理。行楽シーズンは、客の大半が県外から訪れる人だ。GoToキャンペーンで少しずつ観光客が戻りつつあるが、それでも秋の行楽シーズンの売り上げは例年の半分程度にとどまる。
以前は10人いた従業員を雇うことができず、いまは夫婦2人で切り盛りしている。「もとの水準に戻れるとは思っていない。それでも、大子は観光でしかやっていけない場所。新しい方法を模索しながら、ここでやっていくしかない」(佐野楓、小松重則)
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