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 東京国立博物館(東京都台東区)で今春、開催予定だった特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」は、コロナ禍で中止となった。これを惜しみ、その金堂壁画の複製写真や日本画家・丸井金猊(きんげい)が描いた百済観音の屛風(びょうぶ)絵などを、谷中の民家に展示している人がいる。14日から3日間、予約制で無料公開する。

 法隆寺の金堂壁画は1949年に火災で焼損。特別展では、最近見つかった壁画の写真(1916年撮影)や模写、日本古代彫刻の傑作とされる国宝・百済観音などが公開される予定だった。

 特別展を心待ちにしていたのは、ウェブデザイナーの丸井隆人さん(49)。金猊の孫だ。中止を知り、祖父が百済観音をモチーフに描いた屛風絵や法隆寺にちなむ作品と合わせて、金堂壁画の複製を展示できないかと考えた。以前から縁のあった兵庫県の宝塚市立中央図書館から金堂壁画の写真の複製データ(1935年撮影)を借り、大型印刷機で印刷して展示することにした。

 会場は、東京国立博物館に近い谷中の実家。以前から金猊のギャラリーとして折々公開していた。金堂内の1号壁から12号壁までの全12点の複製写真を、なるべく金堂と同じ東西南北の位置になるように展示。6号壁は実寸サイズで、他は縮小サイズで壁に貼り付けた。歴代の多くの画家が手がけた様々な模写の写真や資料なども紹介している。

 金猊の描いた屛風絵「観音圖(ず)」は、百済観音の両脇に婚礼風の白いドレスの女性や男性が立つ。周囲の着飾った女性たちの衣装の細部など、随所に観音像の天衣や法隆寺ほかの有名な仏像のモチーフが使われている。死後、実家のアトリエから屛風絵が見つかった時、丸井さんには仏前結婚式のように思えたが、専門家の分析などから、所々に死を暗示させる部分もあることも分かり、謎が深まっている。

 愛知県一宮市出身の金猊は昭和10年代、古今東西の様々な様式を採り入れた女性像を描く斬新な画風で日本画壇に一石を投じた。旧東京宝塚劇場の階段ホールに「薫風(騎馬婦人群像図)」と題する壁画が展示さたが、火災で焼失、劇場も建て替えられた。

 戦時下に画業を離れてからは画家としての業績について語ることは少なく、作品には未解明な部分もあるが、一宮市博物館での展覧会などを通じて分かってきたのは、法隆寺に特別な関心を抱いていたこと。「聖徳太子二童子像」「馬上太子圖」など、関連する作品を多く残し、隆人さんの名もそこから付けられた。

 丸井さんは「観音圖と金堂壁画が共存する空間を構築でき、祖父含め模写を試みてきた歴代の画家たちの創造性に改めて思いをはせている。焼損した壁画と幻の特別展の双方へのレクイエムも込めた。本来は特別展を見た後、ふらりと立ち寄っていただきたかった」と話す。

 来場は事前予約制。申し込みや問い合わせはウェブサイト「丸井金猊ラボ∞谷中M類栖」(https://kingei.org/別ウインドウで開きます)から。(柏木友紀)

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