[PR]

 鳥取市の山間部で、大規模な風力発電の建設計画が進んでいる。脱炭素社会の実現に向け関心の高まる再生可能エネルギーだが、現場では建設を巡って地元住民との摩擦が生じている。事業者、地元双方の理解を形成する仕組み作りが求められている。

 事業を進めるのは、アジア太平洋地域で、太陽光発電や風力発電の再生可能エネルギー事業を展開するヴィーナ・エナジー(本社・シンガポール)のグループ会社「日本風力エネルギー」(同・東京)。

 同社によると、計画は鳥取市の内陸の山間部約4千ヘクタールに、高さ150メートル、3枚ブレードで回転直径が130メートルの風力発電機(1基あたりの出力4500キロワット)を28基程度設置する。国内で稼働する陸上風力発電としては最大級となる見込み。2023年に着工、26年に運転を開始する予定。

 これに対し、建設地周辺の明治や東郷、西郷など各地区の住民らはグループを結成し、反対活動を続ける。騒音・低周波音による健康被害の懸念に加え、大規模開発による土砂災害へのリスクなどを挙げる。「明治のいのちを守る会」の徳本修一副会長(44)は「建設計画を知って移住を取りやめた人もいる。すでに悪影響が出ている」と訴える。

 9月、反対住民らと同社の意見交換会が開かれた。「事業内容を説明したい」という事業者に対し、住民らは「あくまで計画の白紙を求める」との立場で、2時間以上に及ぶ話し合いは平行線をたどった。

 対立がより深まった背景には、事業者側の住民説明の遅れがある。

 同社が環境アセスメントの第1段階となる配慮書を県に提出したのは17年9月。同年11月の知事意見で「可能な限り早い段階から、十分な範囲の地域の関係者に対し情報を積極的かつわかりやすく提供する」と求められていたが、周辺住民の多くが計画を知ったのは今年になってからという。事業は現在、環境アセスの第3段階となる準備書提出に向けて現地調査に着手する段階だ。

 同社広報部は「集落ごとに区長に説明の場を設けてもらうよう依頼したが、しなくていいと言われるとそれ以上踏み込めなかった」と話し、「地域との対話、近隣への説明をしてこなかったことは私たちの努力が不足していた。このまま住民の方たちの理解が得られることがない状態で建設を進めることはない」と説明するが、住民らの不安感は募ったままだ。

 一方、計画に賛成の人々も。明治地区小原集落の前区長・徳田章一郎さん(70)は「原発には反対だが、温暖化対策を考えた時、次世代のためにも再生エネルギーの普及を後押ししたい」と話す。神戸地区岩坪集落の区長・川口昭さん(57)は「かつて盛んだった林業も今ではすっかり衰退して山は荒れた状態。建設が進めば山に新しい道が作られる。地域の産業もまた元気になるかもしれない」と期待する。(矢田文)

     ◇

 風力発電の建設を巡っては、全国各地で事業者側と地元住民の間で摩擦が生じている。

 再生可能エネルギーの現場における利害関係などを研究する名古屋大学の丸山康司教授(環境社会学)は「騒音や低周波音、景観といった、風力発電の住環境への影響は、住民ごとに判断の基準が異なり、問題が複雑化しやすい」と説明する。

 東日本大震災以降、再生可能エネルギーの普及は加速し、風力発電についても多くの事業者が新規参入するようになった。そのため「風力発電の建設のメリットを地域にきちんと還元することを事業目的で明確にしている企業もあれば、地元とどう話を進めていくべきかノウハウを持っていない未熟な企業もある」と丸山教授は指摘する。

 こうしたことから、風力発電の建設について定めた独自の条例やガイドラインを作る自治体はここ数年で増えている。長野県は、事業者にあらかじめ建設予定地と隣接する市町村の首長の意見を聞いた上で、事業概要書を提出することなどを明記。山形県酒田市では、建設が可能な区域と困難な区域をガイドラインで定め、公表している。

 丸山教授は、風力発電の導入については前向きに捉えるものの、「地域と調和することが大前提。環境アセスは自治体の声が反映されにくいグレーな部分もある。地域の声がより反映された資源にしていくためにも、各自治体や地域でルールを作っておいた方がよい」と指摘する。(矢田文)

関連ニュース