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 東京都狛江市の広報紙に27年間載ったコラムが本になった。筆者は市内に住む元教師の井上孝さん(88)。地元の人から聞いた昔話が「ネタ元」で、インターネットは一切使わず、市役所の資料室で情報の「ウラ」をとって書くスタイルを貫いている。

 多摩川で水泳をした、かつてここにレコード会社があった、災害があって下水道整備も進んだ――。コラムは生活者目線でつづられる話題ばかり。井上さんによると、「市の刊行物なので、過去の事実が間違ってはいけない」のが信条だ。

 原稿ができると、狛江市役所4階にある行政資料室に通い、棚にずらりと並ぶ広報紙のバックナンバーや市議会の議事録、都の統計資料を丹念に読む。コラムの表現が事実に即したものか点検するという。

 例えば、消防署にはしご車が導入された思い出を書いた場合、高さ25メートル以上の建物が当時いくつあったか調べる。統計資料で二つしかないことが分かり、コラムに建物名を入れた。

 中学校の教師だったころ、学校便りを作るのが楽しくて書くのが好きになった。授業で扱う狛江の地域史の副読本作りのために聞き書きしたメモが、自宅にキャビネット三つ分ある。原稿はパソコンで書くが、インターネット回線がつながっていない。

 1932(昭和7)年生まれ。子どもの頃は戦争一色の生活だった。「今の豊かな生活からは考えられない、苦しく貧しい時代があった」との思いがある。続けたコラムは計220回。このうち今年2月15日号までの212回分が10月、本になった。

 「ちまたの歴史書は時の権力者の話が中心で、市井の話こそ書き残さないといけない。私たちはここで生きてきたのだから」

 「狛江・今はむかし」は上巻(322ページ)と下巻(324ページ)。A5判。それぞれ470円で、市役所の秘書広報室で配っている。(前川浩之