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 安倍晋三前首相とロシアのプーチン大統領が、日ソ共同宣言に基づく平和条約交渉の加速で一致したシンガポール合意から14日で2年。安倍氏は側近外交で2島返還へ舵(かじ)を切ったが、展望が描けぬまま退陣。後を継いだ菅義偉首相に、合意がのしかかる。米国の政権交代も交渉に影を落とす。

菅首相 日ロ交渉への本気度は

 首相は10月26日の所信表明演説で「北方領土問題を次の世代に先送りせず、終止符を打たねばなりません」と述べた。ただ安倍氏がシンガポール合意後、国会演説で毎回言及してきた56年宣言に触れなかった。

 9月の就任後初の会見でも、首相は安倍政権が掲げた戦後外交の総決算をめざすとしつつ、北方領土問題には言及しなかった。

 政府高官は「対ロ方針に変更はない」と強調するが、複数の政府関係者は「菅さんはロシアに関心が薄い」「優先順位が下がっている」と指摘する。

安倍政権で交渉行き詰まり

 背景には対ロ交渉の行き詰まりがある。シンガポール合意後の協議でラブロフ外相は、ロシアが北方領土を合法的に獲得したと認めるよう要求。7月にはロシアの憲法が改正され、領土の割譲禁止が明記された。

 歯舞(はぼまい)・色丹の2島返還に転換した対ロ交渉は、安倍政権の側近外交の象徴でもあった。経済産業省出身の今井尚哉首相秘書官らが主導し、外務省は冷ややかだった。菅政権幹部は「前政権のアプローチは失敗だった」と言い切る。

のしかかる「首脳合意」 戦略練り直しの時

 だが政権が代わっても、首脳間の合意は重い意味を持つ。日ロ関係筋によると、菅政権で初めて行われた9月の日ロ首脳電話協議では、プーチン氏から「シンガポール合意をもとに交渉を進めよう」という趣旨の提起があり、首相も同意したという。展望がみえないまま、56年宣言を基礎とした平和条約交渉は続く。

 米国の政権交代も影響する可能性がある。トランプ大統領はプーチン氏に親近感を示し、日ロ交渉に目立った介入をしなかった。一方でバイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権は、日本がロシアと接近しようとすることに不快感を隠さなかった。日本外務省関係者は「腰を落ち着けて、対ロ交渉の戦略を練り直す時だ」と話す。(佐藤達弥)

 日ソ共同宣言 1956年10月に日本とソ連が署名、12月に発効した外交文書で、両国の国交が回復した。「平和条約締結後、ソ連は歯舞群島、色丹島を日本に引き渡す」と明記する一方、択捉、国後両島についての言及はない。

北方領土交渉を巡る経過

1956年10月 日ソ共同宣言

   93年10月 細川首相とエリツィン大統領が「東京宣言」

2001年3月 森首相とプーチン大統領が「イルクーツク声明」

   18年5月 外交青書に「北方四島は日本に帰属する」と表記

   18年11月 安倍首相とプーチン大統領が「シンガポール合意」

   19年4月 外交青書から「四島は日本に帰属する」などの文言削除

   19年6月 G20首脳会議で平和条約の大筋合意をめざしたが、断念

   20年7月 ロシアが憲法を改正し、「領土の割譲禁止」を明記

   20年9月 安倍内閣が総辞職し、菅内閣が発足