佐藤恵子
次の個展が近づき、星奈緒さん(31)は埼玉県の自宅のアトリエで準備に追われていた。一通のメールが届いたのは、そんなときだった。
差出人に心当たりはなかった。「pinecone」と書かれたタイトルの意味もわからない。でも、クリックすると見覚えのある写真が現れた。松ぼっくりの絵。記憶がよみがえった。
まだ駆け出しの画家だった6年前のことだ。画廊で初めて個展が開けることになり、毎日、深夜まで描いていた。たたんだ布団の隣で、パステルの色を紙に重ねて指先でぼかしていく。描いていたのが、松ぼっくりだった。初日が迫って焦るなか、数日かけて完成させた。「ぎりぎりになって描いたわりには良い出来かも」
それが、個展でただひとつ売れた絵になった。まるで、どこかへ巣立っていくように。買い手は数年後に亡くなったと、人づてに聞いた。絵の行方はわからなくなった。
その絵だった。
メールの英文よりも先に、日本…
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朝日新聞社会部