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推し人 遠山健一朗学芸員

 黒く丸い石が敷き詰められた広い水面から、細いワイヤが幾本も立ち上がり、たおやかな弧を空に描く。仏政府から芸術文化勲章を受けるなど世界的に活躍した彫刻家・宮脇愛子(1929~2014)の代表作です。那岐山を遠くに望む、屋根のない空間に置かれています。

 奈義町現代美術館は、周囲の自然、建物、展示品が一体となった「体験型美術館」の先駆けで、建物は宮脇さんの夫・磯崎新氏が設計しました。館に入ると、最初に出会うのがこの作品です。

 8年前に学芸員として働き始めた当初、この作品をどう理解したらいいか分かりませんでした。

 でも毎日接しているうち、心が奪われていきました。風が吹くとワイヤが揺れ、雨が降ると水面に波紋が広がる。季節、天気、時刻……。表情は刻々と変わっていきます。ワイヤを媒介に、うつろう自然そのものを見ていると気付きました。

 作者の宮脇さんは病弱で、死と隣り合わせで生きてきました。幼い頃、病床に横たわりながら空を眺めて「空に絵を描きたい」と夢見たそうです。この作品の意図を「鳥の飛翔(ひしょう)のように自由なものをつくりたい」と語っています。

 幼い頃、誰でも夜の闇に妖怪の姿を想像し、水たまりに落ちる雨だれを飽きず眺めたでしょう。この一見無意味な時間は、実は心豊かな生活そのものですが、大人になるとつい忘れてしまいます。

 作品の横にはベンチがあり、館内カフェからも鑑賞できます。ゆっくり腰掛けて、意味のないように感じるからこそぜいたくなひとときを、奈義の風景と共に味わってもらえればと思います。(構成・中村通子)

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 アーティストが奈義町に一定期間暮らし、作品を制作する企画「アーティスト・イン・レジデンス・ナギ」では、兵庫県在住の彫刻家クボタケシさんの作品展や公開制作を開催。12月25日までで入館料不要。常設展は一般700円、高校生500円、小中生300円。奈義町豊沢(0868・36・5811)。月曜と祝日の翌日休館。

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