【動画】在日コリアンを描いた演劇「タンデム・ボーダー・バード」上演へ
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 同じ民族どうしが戦火を交えた朝鮮戦争の開戦から今年で70年となる。祖国の歴史に翻弄(ほんろう)された在日コリアンを描いた演劇「タンデム・ボーダー・バード」が21、23、28日、大阪市内で上演される。重い歴史が題材だが、笑いやアクションを交えた娯楽作品だ。劇団「May」主宰の金哲義(キムチョリ)さん(49)は「不器用ながらもあの時代を共に生きた在日と日本人のことを知ってほしい」と話す。

 「ナ(私)が生まれるずっと昔々に敷かれた国境線は鳥たちの天国になっている。人が立ち入れないから、鳥たちの天国になっている」。チマ・チョゴリの学生服を着た少女のセリフで始まる物語は、1952年の大阪・猪飼野(いかいの)(現在の大阪市生野区と東成区)を舞台に進んでいく。

 「祖国のために銃を持って戦うんや」。生活のため、夜の軍需工場跡地で鉄くずを拾う在日コリアンの若者スチャンが、親友のギョンウに朝鮮戦争に加わる決意を打ち明ける。驚きながらも、ギョンウはこういさめる。「なんで大阪で一緒に(太平洋戦争の)火の海から逃げ回った同胞どうしが、今度は故郷で北と南に分かれて殺し合うんや」

 バイクに2人乗りするやんちゃな彼らと、それを追いかけ回す日本人の刑事とのコミカルなやりとり。スチャンの妹とギョンウの恋。やがて舞台は80年代に移り、朝鮮学校に通うギョンウの息子が、父を追い回した刑事と再会する――。

 物語では、59年に始まった在日コリアンの北朝鮮への「帰国事業」が重要な背景として描かれる。「地上の楽園」として当時の北朝鮮に憧れた人々が渡航したが、家族の一部だけが先に渡る場合も多かった。やがて現地での生活の窮状が知られるが、自由に日本と行き来はできず、多くの家族が離ればなれのままになった。

 脚本を書いた金さんの伯父は在日2世で、60年に北朝鮮に帰還した。「兄さんに会いたい」とその伯父を慕い続けながら大阪で暮らした父が、初めて訪朝し再会を果たしたのは85年。伯父はその4年後に病死した。金さんは「この世代と共に暮らした最後の世代が僕ら3世。深刻な歴史を深刻なまま伝えるのでなく、娯楽作品にして広く知ってもらいたかった」。

 金さん自身は日本人の刑事役を演じ、5人の日本人俳優、在日コリアンの高校生俳優2人も出演する。

 ギョンウ役を演じた福井拓郎さん(22)は脚本と出会うまで在日社会のことを深く知らなかった。「最初は『僕がこの役をやっていいんかな』と思ったけど、今は、時代や国籍が違っても、恋愛や友を思う気持ちは僕らと変わらないんだと感じています」と話す。

 会場は、大阪市中央区の大阪城公園内「COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール」。4月に別の演劇祭で上演予定だったが、コロナ禍で中止に。今回、10劇団が参加する今月下旬の「関西演劇祭2020」で上演されることになった。「若い俳優たちが希望を取り戻し、一体感がさらに強くなった」と金さん。稽古では出演者全員がフェースシールドかマスクを着用。上演前には全員がPCR検査を受け、結果を確認する予定だ。

 チケットは1席空けての販売。予約や上演時間は関西演劇祭のホームページ(https://kansai-engekisai.com/別ウインドウで開きます)から。チケットの電話予約は専用ダイヤル(0570・550・100)で。(宮崎亮

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 〈朝鮮戦争〉 1950年6月25日、北朝鮮が韓国との境界だった北緯38度線を越えて侵攻。韓国軍を米軍主体の国連軍が支援し、北朝鮮側には中国軍などが参戦した。激しい攻防の末、53年7月に休戦協定を結び、その時の前線が南北を隔てる新たな境界(軍事境界線)となった。韓国側の資料によると、韓国・国連軍の死者は約18万人で、北朝鮮・中国軍の死者は65万人超。民間人の死者・行方不明者は数百万人、離散家族は約1千万人に及んだ。