大統領罷免のペルー、新大統領も5日で辞任 衝突も発生
収賄疑惑を発端に大統領が罷免(ひめん)された南米ペルーで15日、就任したばかりのメリノ新大統領がわずか5日で辞任を表明した。新政権や国会に抗議する大規模な集会が連日、全土で開かれており、首都リマでは治安部隊との衝突で参加者2人が死亡。国民の間に積もった長年の政治不信が一気に噴き出しており、今後も混乱が続きそうだ。
15日正午過ぎ、テレビで演説したメリノ氏は「大統領の職を辞す」と述べ、辞任を明らかにした。ビスカラ前大統領の罷免に伴い、10日に国会議長から大統領に昇格したばかりだったが、就任宣誓から5日での辞任表明となった。
混乱の発端は、ビスカラ氏が9日に国会で罷免されたことだ。自身の政党を持たないビスカラ氏は、大統領を妨害する野党が仕切る国会を「腐敗した利権の巣窟」と批判し、議員の連続再選禁止などの国会改革を主導。新型コロナウイルス対策でも評価され、5月には支持率が8割に達した。
これに対し、野党が多数の国会はビスカラ氏降ろしを画策。過去の疑惑を掘り起こし、ビスカラ氏が県知事だった2014年ごろ、公共工事で便宜を図る見返りに建設会社から230万ソル(約6700万円)を受け取ったという疑惑の追及を始めた。
ただ、大統領の任期は残り8カ月ほど。21年4月には大統領選が予定されており、直近の世論調査では8割が「ビスカラ氏は任期満了後に捜査を受けるべきだ」と回答した。それでも、国会は「道義的能力の欠如」を理由に、ビスカラ氏の罷免に踏み切った。
国民不在の決定に「腐敗を隠したい国会によるクーデターだ」との批判が起こり、メリノ氏が大統領に昇格すると、SNSでは「私の大統領ではない」というハッシュタグが拡散。抗議の波が全土に広がった。
リマでは14日、市内各地で断続的に抗議集会が開かれた。現地の情報によると、数万人が参加したとみられる。夜には、治安部隊との衝突で20代の若者2人が死亡したと報じられ、直後から閣僚が次々と辞任の意向を表明。地元メディアによると、15日未明までに、首相を含む新内閣19人の閣僚のうち、内務相や保健相、国防相、法務相など13人が辞任した。
国営放送局の報道局長が「抗議活動を放送しないよう圧力を受けた」として、検閲に抗議して辞任したとも報じられた。新政権の強権的な姿勢にも批判が集まっていただけに、衝突で死者が生じたことで、閣僚の辞任ドミノが始まった。
15日午前には、国会が党代表者会議を招集し、新大統領の退陣方針を決定。メリノ氏には、辞任勧告の受け入れ以外に道は残されていなかった。
抗議集会は当初、新大統領や国会への批判が中心だったが、政治改革を求める声も次第に高まっている。「ビスカラのためではない。国民のためだ」。こんなプラカードを持って集会に参加する人たちもいる。
14日にリマの集会に参加した大学生、イメルダ・バルタさん(23)は電話取材に「参加者は日を追うごとに増えている。もはや前大統領の罷免だけが問題ではない。学生や市民を無視してきたこれまでの政党や政治すべてが問題だ」と語った。
ペルーではフジモリ元大統領以降、ビスカラ氏まで6人の歴代大統領が汚職疑惑で捜査され、政治家らの腐敗が長年取りざたされてきた。今回の抗議は、国民の政治不信が一気に爆発した結果だ。
隣国チリでは19年、地下鉄運賃の値上げをきっかけに学生の抗議が大規模な抗議活動に発展、新憲法制定の国民投票につながった。ペルーでも、チリのように憲法改正など、根本的な政治改革につなげようと主張する人たちもいる。
今後の政権については、国会もメリノ氏も言及しておらず、政党間のかけひきが続くとみられる。国会議員による密室政治に、国民は強く反発しており、メリノ氏の辞任で混乱が収束するかは見通せない状況だ。(サンパウロ=岡田玄)
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