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 土鍋のふたを開けると、立ち上る湯気の向こうに、炊きたてご飯がつやつやと光っていた。

 白い米粒に混じって、中央に茶色い線が入った粒がある。これがもち麦だ。正しくは「もち性大麦」という。粘りが多く、もちもちでむっちり。弾力のある麦粒と柔らかい白米が口の中でリズムを作る。つい、おかわりしてしまった。

 麦ご飯には健康にいい成分が多いが、戦後間もない頃、当時の首相が「所得の少ない人は麦を食う」と発言したように、「貧しい」とか「おいしくない」という印象を持つ人は少なくないだろう。

 高度成長期以降、大麦は日本の主食から消えていき、生産量は戦後50年で激減。弥生時代から約2千年続く主食としての大麦栽培は、絶えかけていた。

 そんな大麦を救ったのが新品種のもち麦「キラリモチ」だ。国立研究開発法人農研機構が2009年、健康食として注目され始めたもち麦の生産拡大を目指して開発した。

 特徴の一つは、そのまま炊けて茶色くならないこと。農研機構西日本農業研究センター(香川県)の吉岡藤治主席研究員によると、変色の主な原因となるポリフェノールの一種「プロアントシアニジン」が品種改良でなくなった。

 一方、便通改善や食後の血糖値抑制などの効果が報告されている食物繊維のβグルカンを豊富に含む。そして、最大の魅力はその食感と味。麦ご飯の「革命」といってもいい。

 兵庫県と接する岡山県美作(みまさか)市は、耕作放棄地対策と市民の健康改善の一挙両得を目指し、16年にキラリモチ栽培に乗り出した。市と生産農家で「もち麦部会」を結成。生産から流通まで一貫して担い、特産品化を進める。

 農業組合法人「赤田営農センター」の永谷謙治代表理事(72)は市の呼びかけに応じ、この年の秋、大麦の種を初めて山の斜面にまいた。実りを迎えた翌17年5月。畑で目を見張った。根元から穂先まで黄金色に染まった麦たちが斜面を覆い、風に揺れ、初夏の日差しに輝く。「麦畑ってこんなにきれいなんだ」

 その後、美作市産キラリモチは地元の道の駅「彩菜茶屋」で、年に4トン売れる人気商品に。東京の高級スーパーも扱う。スーパー「マルイ」(本部・岡山県津山市)は、岡山県内全12店舗で約1年半前に売り始めた。バイヤーの近藤大洋さん(30)は反響の大きさに驚いたという。キラリモチ目当ての客も多い。「まさに目玉商品。品切れすると、お叱りや入荷の問い合わせが相次ぎます」

 美作市では11月上旬ごろから、市内12の農家が畑計約70ヘクタールに種をまきはじめた。黄金色に実る初夏を待ち、種麦は中国山地の厳しい冬を越す。(中村通子)

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 美作市産キラリモチは、市内直販所では300グラムパック390円など。美作市健康づくり推進課(0868・75・3911)のお勧めは、もち麦3割配合ごはん。米2合にもち麦を1合混ぜ、水は4合分入れて炊く。もち麦に対し、倍量の水加減にするのが重要ポイントだ。同課は、もち麦のレシピ集を作成。市のホームページからダウンロードできる。ユーチューブで調理動画も配信中。

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