寺尾佳恵
コロナ禍で、わたしたちは人の顔を直接見る機会が減ったような気がします。マスクをする日常、人と話すときは画面越し……。今回、#ニュース4Uでは「顔」をテーマにいろんな話題を募っていますが、例えば「あなたが会いたい人の顔は」と尋ねたところ、こんなメッセージが届きました。
できればもう一度会ってみたい。もし何か手がかりになる情報がありましたら、どんなささいなことでもお寄せいただけると幸いです。
◇
「子どもの頃、トイレの個室に閉じ込められたときに助けてくれたお兄さんとお姉さんに会いたいです」
送り主は神奈川県相模原市に暮らす女性(28)。記者がその時の話を聞いた。
3、4歳の頃、家族で訪れた東京・南大沢の商業施設で、一人でトイレに入った。トイレの中には当時まだ珍しかったベビーチェアがあった。
「座ってみたいな」。子どもながらに自分が座る年齢ではないことはわかっていた。でもどうしても座りたい。よじ登って、座ってみた。
ところが、おりようと思ってもロックが外せない。おへそのあたりにあるボタンを手前に押すのだが、子どもの力では外れなかった。個室の鍵も閉めているし、両親はトイレの外。パニックになってしまって、大声で泣き叫んだ。
「大丈夫?」。何人かの声がして、外がざわざわし始めたとき、若い男女の声が聞こえた。
「○○くん! こっちこっち! 中で子どもが泣いてるの」
「わかった、ちょっとどいて!」
ガタガタガタ。扉が揺れると個室の壁をよじ登ってきたお兄さんが、個室の内鍵を開けてくれた。お姉さんがベビーチェアのロックを外し、抱き下ろしてくれた。両親よりも若い2人だった。
出られてホッとした気持ちと、親世代とは雰囲気が違う大人の怖さから、その場から走り去った。「お母さんに怒られる」。トイレの前にいた両親の前も通り過ぎた。
やっとトイレでの出来事を伝えられたのは、問い詰められた帰りの車の中。助けてくれたカップルにお礼を言うことはできなかった。
女性は「お兄さんはイケメンで長髪。お姉さんはジージャンにミニスカート、白いブーツを履いていた」と記憶しているが、どんな顔だったかははっきり覚えていない。
あれから約25年。女性は1児の母に。トイレに入り、子どもをベビーチェアに座らせることもある。「外して、外して」と言われる度に「あのとき」のことを思い出す。
「助けてくれたお兄さん、お姉さん、どうもありがとうございました。できればあってお礼が伝えたいです」
◇
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朝日新聞社会部